2026年11月、北海道十勝の広尾町で酪農を営んできた牧場が、10月28日付で破産手続きの開始決定を受けたと報じられました。
負債は約3億2,000万円にのぼります。
2022年に搾乳の設備を新しく入れ、作業の効率を上げようとしていました。
ところが、エサ代の高騰と生乳の生産調整が重なり、思うような売上や利益を確保できなかったとのことです。
設備を入れるために借りたお金が、重荷になってしまう。
これは酪農に限らず、工場の機械や運送会社のトラック、お店の改装など、借入で設備を入れた会社なら、どこでも起こり得る話です。
では、設備投資の借入は、なぜ返せなくなることがあるのでしょうか。
最初に、報じられた内容を確認しておきます。
北海道の酪農牧場が負債約3.2億円で破産
東京商工リサーチの情報を伝えた、北海道のテレビ各局の報道の要点は次のとおりです。
北海道広尾町で酪農業を営む牧場が、2026年10月28日、釧路地裁帯広支部から破産開始決定を受けた。負債総額は債権者7人に対して約3億2,000万円で、大半が金融債務とみられる。
1945年ごろに酪農業を始め、1997年1月に法人化。ホルスタイン種約120頭を飼養し、生乳を生産していた。2022年には搾乳のパーラー設備を導入して生産効率化を図ったが、設備投資に伴う負担が生じていた。
生産調整や飼料価格の高騰などの影響で、思うような売上や利益を確保できず、連続赤字に陥っていた。2025年12月期は売上高1億700万円、当期純損失560万円で、約2,300万円の債務超過となっていた。今期に入っても業況の改善が見込めず、事業の継続を断念した。
— 東京商工リサーチの情報を伝えた北海道放送・札幌テレビ放送・テレビ北海道の報道(2026年11月6日)より要点を整理
80年ほど前に酪農を始め、約120頭の乳牛を育ててきた牧場です。
年間の売上高1億700万円に対して、負債は約3億2,000万円と、売上のおよそ3倍にのぼります。
報道は、続けられなくなった理由として、設備投資の負担に、生産調整と飼料の高騰が重なったことを挙げています。
牧場の中でどんな判断が重ねられてきたのかまでは、報道からは分かりません。
ここからは、この牧場の話を離れてお伝えします。
エサ代と生産調整は牧場の努力だけでは変えられない
酪農は、乳牛を育てて生乳をしぼり、出荷して売上を得る商売です。
牛は生き物なので、売上が落ちたからといって、エサを減らしたり世話を休んだりするわけにはいきません。
そのエサ代が高くなれば、しぼった生乳を売って残るお金は、それだけ少なくなります。
では、たくさんしぼって売れば取り返せるのか。
そうとも限りません。
生乳は、需要と供給のバランスによって、出荷先から生産の調整を求められることがあるからです。
設備を入れて効率を上げても、出す量を自分の判断だけでは増やしにくい時期がある、ということです。
エサ代は上がり、出す量は思うように増やせない。
どちらも、牧場の努力だけでは変えられないことです。
しかも、牛舎や搾乳の設備は、何年もかけて借入を返していく大きな買い物です。
生き物と土地と設備を抱える商売は、苦しくなってからでは、簡単には身動きが取れません。

設備投資の借入が返せなくなる3つの理由
酪農に限らず、借入で設備を入れた会社に共通する理由が3つあります。
売上が増えても残るお金が増えるとは限らない
設備を入れるときは、「これで効率が上がる」「売上も増える」という見込みで借ります。
ですが、売上が増えても、材料費や人件費、燃料代などの支払いが同じだけ増えれば、手元に残るお金は増えません。
借入の返済は、その手元のお金から出ていきます。
売上の大きさだけでは、返せるかどうかは判断できません。
元金の返済は決算の経費にならない
もう1つ、見落とされやすいのが、決算の数字と手元のお金のずれです。
中小企業基盤整備機構が運営する情報サイト「J-Net21」では、次のように説明されています。
借入金の元金を返済した場合も、その全額が資金流出を伴う「支出」となりますが、利益を計算する際の「費用」とはなりません。
— 中小企業基盤整備機構「J-Net21」の解説「資金繰りとは」より引用
設備の借入は額が大きくなりやすく、返済も何年も続きます。
利益の計算には出てこない元金の返済が、毎年そのぶん手元のお金を減らしていきます。
決算書の赤字や黒字だけを見ていると、お金が減っていく速さに気づくのが遅れます。
見込みが外れても返済の約束は変わらない
そして3つ目。
設備を入れたときの見込みが外れても、毎月の返済額は借りたときの約束のままです。
材料費や燃料代が上がった、見込んだほど注文が来なかった、取引先が減った…
事情がどう変わっても、返済の日は毎月やってきます。
足りない分を、社長が自分のお金を会社に入れて埋める。
家族の預金まで回せば、暮らしそのものが苦しくなります。
それでも足りなければ、また借ります。
返すために借りる繰り返しに入ると、借入の残高はなかなか減らず、最後は払えなくなってしまいます。
設備を守ろうとするほどお金は残らない
借入やリースで入れた設備には、どうしても思い入れがあるものです。
「ここまで設備を揃えたのに、今さら手放せない」
「まだ返済もリースも山ほど残っているから、今やめるのは無理だ」
そう考えて、無理をしてでも返済を続ける社長は少なくありません。
たちばなはじめも、かつてはガソリンスタンドと工業用燃料の卸を営む石油商でした。
燃料という危険物を扱う商売には、広い敷地とそれなりの設備が欠かせません。
「せっかくここまで揃えたのに」
そんな思いは、当時のたちばなはじめにもありました。
もともと数字は経理にまかせきりでしたが、資金繰りが苦しくなってきたのをきっかけに、会計を学び、自分で数字を追うようになりました。
そこで、ようやく気づいたのです。
揃えた設備は全部、借りたお金で買ったもの。
自分のお金で揃えたものではなかった、と。
その後も手を尽くしましたが、事業を続けることはできませんでした。
借入で入れた設備は、返し終えるまで借入とセットです。
手放しても、借入がすべてなくなるとは限りません。
報じられた牧場とは別に、たちばなはじめのもとには、以前、酪農を営んでいた家族から相談が寄せられたことがあります。
牛舎を処分し、牛を売って、持ち物のほとんどを返済に充てても、なお残った負債は1億円ほど。
設備を守るつもりで返し続けたお金は、設備を手放しても戻ってきません。
設備は、お金が残っていれば、また揃えることができます。
ですが、家族の暮らしは、一度崩れると簡単には取り戻せません。
たちばなはじめのお金の優先順位は、次の5つです。
- 家族
- 従業員
- お客
- 協力企業
- 銀行
家族・従業員・お客様・協力企業を守るのが先で、銀行への返済は一番最後にする。
これがたちばなはじめのコンセプトです。
苦しくなると、まず自分の給料を下げて家族に我慢をさせ、次に従業員や取引先への支払いを削り、それでも銀行への返済だけは続けてしまう。
そうなっていないか、一度振り返ってみてください。

返済が重いと気づいたときが見直しどき
設備の借入が重いと感じたら、まず確かめてほしい数字が2つあります。
1つは、毎月の入金から、仕入れや材料費、エサ代、給料、家賃などの支払いを引いて、借入の返済とリース料を払う前にいくら残るか。
ここでは、これを「返済の前に残るお金」と呼びます。
もう1つは、設備を入れてから、その返済の前に残るお金が、毎月いくら増えたかです。
増えた分で設備の返済とリース料をまかなえていなければ、その設備は見込みどおりには働いていません。
あなたの会社では、どうでしょうか。
その不足を、預金や家族のお金、新しい借入で穴埋めしているなら、今の返し方はいずれ行き詰まります。
返済の前に残るお金が毎月あるなら、設備や事業を手放す前に、金融機関との交渉方法を見直す道があります。
返済の前でもお金が残らないなら、返済の条件を変えて毎月の額を軽くしても、借入の残高は減らない。
設備の使い方や事業の大きさそのものを、考え直すときです。
設備のための返済より、家族の暮らしのお金が先。
資金が残っているうちに取り組めば、資金は残ります。
早く動けば、そのぶん早く楽になります。
設備投資の借入や、続けるかやめるかを決める考え方は、次の記事でも取り上げています。
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返済のことで少しでも気がかりがあれば、まずは一度ご相談ください。
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