2026年9月、週刊ポストの記事で、モヤシの生産・販売で国内最大手の会社が紹介されました。
岐阜県中津川市のサラダコスモです。
2026年5月期の売上高は271億円、経常利益率は10%近く、そして46期連続の黒字。
経産省の幹部が「中小企業のお手本のようだ」と評したと報じられています。
ところが、この会社も1980年代の半ばに、黒字倒産の危機に直面していました。
利益は出ていたのに、現金が回らなくなったのです。
「うちは黒字だから大丈夫」
もしあなたがそう考えているなら、この事例は他人事ではありません。
では、なぜ利益が出ているのに現金が尽きるのか、お手本と言われる会社が経験した危機から、その仕組みを見ていきます。
46期連続黒字の会社も黒字倒産の危機だった
記事によると、危機が訪れたのは1985年のことです。
当時の売上は11億円でした。
生産能力増強のために投資したことで、キャッシュフローが回らなくなり、黒字倒産の危機に直面した。
— 2026年9月、週刊ポスト(マネーポストWEB)の報道より
設備を増やして、モヤシをもっと作れるようにした矢先のことでした。
売れていましたし、利益も出ていました。
それでも、通帳の現金は回らなくなったんですね。
その後も、資金繰りは綱渡りの状態が続いたそうです。
そして1989年、中田智洋社長は大手銀行の名古屋支店に飛び込み、融資を申し込みます。
対応した若手の行員が、地元の金融機関も巻き込んで30億円を借りられる仕組みを組み上げました。
数年前まで売上11億円だった会社に、30億円を無担保で貸したのです。
行員が融資した理由は、記事にこう書かれています。
「中田さんは夢を語ることができ、ソロバンもできるので」
夢だけではダメ。
数字も語れる社長だったから、銀行が貸したのです。
その後、1990年の売上は42億円と5年で4倍近くに伸び、今日の46期連続黒字につながっていきます。
この話で注目してほしいのは、30億円という金額ではありません。
利益が出ていた会社でも、投資の仕方ひとつで現金が回らなくなる、という事実のほうです。

利益が出ていても現金が尽きる理由とは?
利益と現金は、別のものです。
利益は、決算書の上で計算された数字です。
現金は、いま通帳に入っている金額です。
この2つがずれる原因は、大きく3つあります。
- 設備投資。機械や工場を買えば現金は一気に出ていきますが、決算書では減価償却として何年にも分けて費用になります。だから利益は黒字のまま、現金だけが減ります
- 借入金の元金返済。毎月の返済のうち元金の部分は、決算書の費用には出てきません。利益が出ていても、その利益以上に元金を返していれば現金は減っていきます
- 入金と支払いのタイミング。仕入代金や人件費は先に出ていき、売上の入金は後から入ってきます。支払いより入金が遅い会社は、売上が伸びるほど立て替えるお金が増えます
サラダコスモの危機は、1つ目の設備投資が引き金でした。
ですが、これは製造業だけの話ではありません。
店舗を増やす、車両を買い替える、システムを入れる。
どれも現金は先に出て、利益への影響は後からゆっくり出てきます。
とくに危ないのは、売上が伸びているときです。
売れれば売れるほど、仕入も人も設備も先に増えます。
決算書の利益は伸びているのに、通帳の残高はどんどん減っていくのです。
「黒字なのに、なぜお金がないんだ」
そう首をかしげている間に、月末の支払いが迫ってきます。
これが、黒字倒産の入り口なんですね。
事業の根幹は事業ではなく会計にあり
たちばなはじめは、かつて燃料油の卸・小売を中心に複数の事業を営んでいた時期があります。
もともと会計は経理まかせで、自分で細かく数字を追ってはいませんでした。
売上と利益さえ見えていれば事業は回る。
そう思い込んでいたのです。
ところが、自社の資金繰りが少しずつ苦しくなってきたことをきっかけに、自分で会計を学び始め、数字を直接把握するようになりました。
元帳で数字を合わせ、現金出納帳をつけ、資金繰り表を作り続けると、それまで見えていなかった問題が次々と出てきたと言います。
ですが、その努力は実らず、結果的には多額の負債を抱えて、事業は破綻してしまいます。
数字を追い始めた時点で、すでに現金は減りすぎていた。
この経験から、たちばなはじめが繰り返し説いているのは、「事業の根幹は事業ではなく会計にあり」という教えです。
自分が数字をおろそかにしたことが、そもそも事業を窮地に追い込んだ始まりだった。
利益は、結果として後から出てくる数字。
現金は、いま手元にあるかどうかを示す動かしがたい事実です。
経営判断のもとになるのは、間違いなく現金のほうです。
「数字、とくに現金の流れから目をそらさない」
これが、たちばなはじめが日々の発信で伝え続けているメッセージです。

黒字倒産を防ぐために社長がやるべき3つのこと
では、どうすればいいのか。
やることは次の3つです。
- 毎月、通帳の残高がいくら増えたか減ったかを、自分の目で確かめる。利益ではなく現金を見る
- 設備投資や借入は、決める前に「毎月いくらの現金が、何年出ていくか」を計算する。返済まで含めて現金で考える
- 現金が減り始めたら、売上を増やして埋めようとする前に、支出と返済の見直しから手をつける
1つ目を続ける一番の近道が、資金繰り表です。
難しく考える必要はありません。
今月いくら入って、いくら出て、月末に残高がいくらになるか。
この1枚を毎月更新し、社長自身が数字を確かめるだけで、月末に「あれ、現金が足りない」と慌てる事態は劇的に減ります。
経理担当の報告を聞くだけでは足りません。
帳面を見ず、担当者の報告だけで数字を把握している社長ほど、黒字倒産の危機に気づくのが遅れるのです。
2つ目は、投資の順番です。
今期は利益が大きいから、今のうちに設備を買っておこう。
そんな決め方をしてしまう会社は少なくありません。
が、ちょっと待ってください。
その設備の代金と、借りたなら毎月の返済が、これから何年も現金を減らし続けます。
買う前に、資金繰り表の上に、その現金の出ていき方を書き込んでみてください。
そして3つ目は、現金が減り始めたときの動き方です。
現金が足りないとき、多くの社長は「もっと売れば」と考えます。
でも、売上を伸ばすには仕入も人も先に必要で、現金はさらに先に出ていくのです。
借入で埋めれば、翌月から返済が上乗せされます。
まず見直すのは、支出と返済の中身のほうです。
銀行が貸すのは数字を語れる会社
もうひとつ、知っておいてほしいことがあります。
サラダコスモは30億円を借りて危機を乗り越えました。
ですが、同じことがどの会社にも起きるわけではありません。
あの会社は、現金こそ足りなかったものの、利益が出ていて、社長が数字を語れた。
銀行は、返せる根拠を見せられる会社にお金を貸したいのです。
現金が尽きかけて、数字も説明できない状態で駆け込んでも、融資はなかなか下りません。
だからこそ、平常時から資金繰り表で数字を語れる状態を作り、現金が減り始めたらその月のうちに支出と返済に手を入れる必要があるのです。
黒字でも現金の流れから目をそらしてはならない
46期連続で黒字を続けている会社でさえ、一度は現金が回らなくなりました。
この事実が教えてくれるのは、黒字は安心の証明ではないということです。
利益が出ているときこそ、通帳の残高を自分の目で確かめてください。
資金繰りは、我慢してはいけません。
現金が減り始めたら、その月のうちに手を打つことです。
早く手を打てば打つほど、選べる道は断然多くなります。
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