「先代から続く会社を、自分の代で終わらせるわけにはいかない」
「かといって、継いでくれる人がいない」
業歴の長い会社の社長ほど、この2つの思いの間で答えを出せないまま、年月だけが過ぎていきます。
2026年9月23日、東京商工リサーチが畳製造業256社の業績動向をまとめた調査を公表しました。
業歴50年以上の会社が8割を超え、100年以上の老舗も2割を超えています。
その一方で赤字の会社は4割に迫り、代表者の年齢は60代が最多で、40歳以下はわずか5%です。
畳という伝統産業の話ですが、老舗で後継者が決まっていない会社なら、業種を問わず同じ構図を抱えています。
では、後継者がいない老舗の社長は、赤字を借入金や蓄えで埋め始める前に、何を決めておくべきなのか。
調査の数字から順にお伝えします。
畳製造業の赤字企業が4割に迫る
まず、調査の要点です。
東京商工リサーチが畳製造業256社の2025年度(2025年4月〜2026年3月期)の業績を集計したところ、売上高の合計は前年度比1.3%減の402億7,700万円で、2021年度と比べると6.3%の減収。減収企業は136社(53.1%)で、増収企業の81社(31.6%)を大きく上回った。赤字企業は97社(37.8%)と、2024年度の85社(33.2%)から増えている。売上高5億円未満が243社(94.9%)と小規模な会社が大半で、業歴50年以上が211社(82.4%)、うち100年以上は58社(22.6%)。代表者の年齢(判明180社)は60歳代が67社(26.1%)で最多、40歳以下は14社(5.4%)にとどまる。2025年の休廃業・解散は28件、倒産は3件。令和7年産のいぐさは作付面積が前年比24%減、収穫量も27%減で、原料の供給減も重なっている。
— 東京商工リサーチ TSRデータインサイト「『畳製造業』伝統産業に忍び寄る市場変化と後継問題」(2026年9月23日公表)の要点より
生活様式が変わり、畳の需要そのものが減っています。
原料のいぐさも減り、安い海外産との競争もあります。
そして職人は高齢化し、継ぐ人が育っていません。
売上が減り、利益が出ず、後継者もいないという三重苦です。
調査は「生き残りをかけた転機」と表現していますが、これは畳製造業に限った話ではありません。
需要が縮む市場で、業歴の長い会社が、後継者不在のまま赤字を続ける。
この構図は、製造業でも小売業でも、地方のサービス業でも、いたるところにあります。

休廃業28件と倒産3件の差は手元のお金
この調査で、私たちがいちばん注目したのは「休廃業・解散28件、倒産3件」という数字です。
休廃業と倒産は、まったく違います。
休廃業は、支払いができなくなって法的な整理に入るのではなく、社長が自分の意思で事業を止めることです。
その多くは、従業員や取引先への支払いを済ませ、お金や資産を残した形で終わります。
倒産は、支払いができなくなって続けたくても続けられなくなることで、手元に残るお金はほとんどありません。
畳製造業では、休廃業が倒産の9倍以上。
つまり大半の会社が、支払いに行き詰まる前に、自分の意思で事業を止められているということです。
これは、決して悪い話ではありません。
が、気になるのは、赤字企業が1年で33.2%から37.8%に増えたという事実です。
赤字が続くと、会社のお金は毎年減っていきます。
減った分をどうするか。
多くの社長は、自分の蓄えを会社に入れるか、金融機関から借りて埋めます。
蓄えを入れれば社長個人の老後のお金が減り、借りれば会社の借入金が増えます。
どちらにしても、お金を残して休廃業できる余地は、埋めた分だけ狭くなるんですね。
とくに借入金は、会社を閉じても返済が残ります。
返済のために続け、続けるからまた赤字が積み上がる。
そうやって数年を過ごすうちに、休廃業で終われたはずの会社が、倒産の側に移っていきます。
一度縮み始めた市場は、元には戻りません。
たちばなはじめは、この状態を「水がめ」にたとえてお伝えしています。
我慢すればするほど、水がめの水は減っていきます。
残っているうちに手を打たなければ、選べる道そのものがなくなってしまうのです。
老舗ほど自分の代でやめると決められない
では、なぜ老舗の社長は、赤字と分かっていても決められないのでしょうか。
理由は、数字ではなく気持ちの側にあります。
「先祖に申し訳が立たない」
「地域で最後の1軒だから」
「長年ついてきてくれた職人がいる」
どれも、社長にとっては本当の気持ちです。
たちばなはじめ自身、50年以上続いた老舗の跡取りでした。
長く続いてきた事業に自分の手で終止符を打つことに、ためらいがあったのは事実だと語っています。
それでも優先したのは、従業員と家族に迷惑をかけないこと、お客様への迷惑を軽くすること、協力してくれた取引先に先に支払うこと。
歴史や伝統を理由に不採算の事業を受け入れ続けるのは、自分本位な考え方だと、たちばなはじめは言い切っています。
先代が生きた時代と、いまの時代は違います。
いまを生きているのは、社長と家族と従業員です。
先代までが積み上げてきた利益や蓄えを家族や従業員に還元せず、赤字の穴埋めに使う。
これを続けている老舗は、実際に少なくありません。
そして、後継者がいない会社ほど、この状態が長引きます。
「自分の代で終わらせたくない」と言いながら、継ぐ人がいないのですから、何もしなければ、結局は自分の代で終わるしかありません。
その日が来るまで赤字を埋め続けるのか、それとも、お金が残っているうちに終わり方を自分で決めるのか。
答えを先送りするほど、残るお金は減っていきます。

後継者がいない老舗が廃業か承継かを決める時期
たちばなはじめがセミナーでよく使うたとえに「バックギアのない車」があります。
事業を続けることしか考えず、やめ方を知らず、自分が歳をとらない、死なないという前提で経営している社長のことです。
後継者がいない老舗の社長に必要なのは、前に進む力ではなく、このバックギアです。
やめるにしても、継がせるにしても、道筋は社長が元気なうちにしか作れません。
決めることは、大きく分けて次の3つのどれにするかです。
- 家族や番頭、社員の誰かに継がせる
- 技術とお客を、同業や第三者に譲る
- 自分の代で、お金を残して廃業する
どれを選ぶにしても、共通する条件があります。
赤字を借入金や蓄えで埋め始める前に決める、ということです。
継がせるなら、借入金を片づけてから渡す。
負債を背負わせたまま継がせるのは、継いでくれる人への押しつけです。
譲るなら、譲り受けた側が「いい事業を買った」と思える状態で譲ります。
借入金も一緒に引き取ってくれ、という話は通りません。
廃業するなら、従業員と取引先への支払いを済ませて、なお手元にお金が残るうちに決める。
いずれも、赤字が積み上がってからでは間に合わないんです。
判断の材料は、気持ちではなく数字です。
いま事業は儲かっているのか、いないのか、この先、儲かる環境を作れるのか、作れないのか。
この問いに、現金の流れを見ながら答えてください。
「儲かっていない、この先も作れない」なら、続ける理由は看板しか残っていないということです。
その場合は、いつまでに、どの形で終わらせるのかの見込みを、いまから立てておきましょう。
すぐに閉めろという話ではありません。
やめる日を決め、それまでに借入金を減らし、職人やお客の引き継ぎ先を探しておく必要があります。
この準備には、数年かかります。
だからこそ、社長が元気で、会社にお金が残っている今しか、動き出せないのです。
そして、決めた内容は家族と共有しておいてください。
老舗の場合、社長の頭の中にしかない情報が、ほかの会社より多いものです。
取引先との約束、職人との関係、借入金と個人保証の中身などなど、社長にしか分からないことばかりです。
これを社長だけが抱えたまま万一があれば、家族は何も決められません。
やめ方を決めておくのも社長の仕事
畳製造業の数字は、業歴の長い会社の未来を先取りして映しています。
需要は戻らず、原料は減り、継ぐ人はいません。
それでも、休廃業28件に対して倒産3件という数字が示すとおり、いまはまだ、自分の意思で事業を止められている会社が大半です。
この差を分けるのは、業歴でも技術でもなく、赤字を借入金や蓄えで埋め始める前に決めたかどうかです。
継がせるのも、譲るのも、やめるのも、どれも社長の決断。
ただ、決めるのが遅れるほど、残るお金は減り、選べる道は狭くなっていきます。
後継者がいない老舗の社長こそ、終わり方を先に決めておくことが大切です。
それが、先代から受け継いだ従業員とお客、そして家族を守る、いちばんの近道です。
会社を継がせず事業だけを継がせる方法や、社長の万一に備えた情報の共有については、次の記事でもくわしく取り上げています。
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