仕入れ代金も人件費も電気代も、上がり続けています。
「そろそろ値上げの交渉をしなければ」と考えている社長も多いはずです。
実際、価格転嫁の交渉は、今や9割の会社が行う時代になりました。
ところが、上がったコストのうち取引価格に反映できたのは、平均で半分ほどにとどまっています。
問題は、転嫁しきれずに残った分の扱い方。
ここで「売上を増やしてカバーしよう」と考えると、資金繰りはかえって苦しくなるんです。
まずは、最新の調査の中身から見ていきましょう。
価格転嫁の交渉は9割・でも通るのは半分
2026年6月、中小企業庁が「価格交渉促進月間」のフォローアップ調査の結果を公表しました。
価格交渉が行われた割合は前回から微増し90.7%となった。価格転嫁率は前回から約1ポイント増の54.2%。コスト要素別の転嫁率は、原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%となった。
— 中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」(2026年6月公表)より
まず、9割の会社が価格交渉のテーブルについている、という事実は追い風です。
ひと昔前なら「値上げを言い出したら取引を切られる」と我慢するのが当たり前でした。
いま交渉すること自体は、少しも特別ではありません。
国も、発注側の大企業が価格交渉にどう応じたかを毎回調査して、企業名入りで公表するようになりました。
一方で、転嫁率は54.2%。
つまり、上がったコストの半分近くは、いまだに自社でかぶっている計算になります。
とくに通りにくいのが、労務費の50.0%です。
賃上げで増えた人件費の半分は、あなたの会社の利益を削って払っているわけです。
交渉しても、全部は通りません。
この「通らなかった半分」の扱い方で、資金繰りの行方が大きく変わります。
転嫁できない会社から倒産が増えている
転嫁しきれないコストを抱えたままだと、何が起きるのか。
それを示す調査結果が、もうひとつあります。
東京商工リサーチが2026年7月8日に公表した集計です。
東京商工リサーチの集計では、2026年上半期の「物価高」倒産は439件(前年同期比27.6%増)となり、これまで最多だった2024年上半期の375件を上回って過去最多を更新した。2025年12月から7か月連続で前年同月を上回っている。業種別ではサービス業他が117件(同58.1%増)、建設業が92件(同33.3%増)と増加が目立ち、飲食店が最も多い。円安に加え、中東情勢の影響で原油やナフサなど基礎原料の供給不足による価格上昇が続き、人件費や金利の上昇も収益を圧迫している。コスト上昇分を価格転嫁できない場合は利益に反映されず、中小企業の資金繰りに大きな負担となる。今後も幅広い資材・商品の値上げが予想され、物価高倒産は増勢が見込まれるとされる。
— 東京商工リサーチの調査より(2026年7月8日公表)
物価高をきっかけにした倒産は、7か月連続で前年を上回り続けています。
広がり方にも、特徴があります。
業種別では、最も多いのが飲食店。
飲食店を含むサービス業は6割近い増加で、建設業も3割以上増えています。
つまり、コストが上がっているのに転嫁が追いつかない状態は、業種を問わず、会社の資金繰りに重くのしかかっているんです。
そして、この流れは今後も続くと見込まれています。
転嫁しきれない分をどう扱うかは、もはや全業種の社長にとって避けて通れない問題になりました。
転嫁できない分を「売上を増やして埋める」が一番危ない
転嫁しきれないコストを前に、多くの社長がこう考えます。
「値上げが無理なら、その分たくさん売って稼ごう」
お気持ちは痛いほどわかります。
ですが、この発想が一番危ないんです。
売上は「客数×客単価」で決まります。
値上げをあきらめて売上を伸ばそうとすると、残る手段は客数を増やすことだけ。
そして、お客さんを増やす取り組みには、必ず先にお金がかかります。
広告を打つ、営業を増やす、仕入れを積む、人を雇う、といった具合です。
売上が入ってくるより先に、限られた資金がどんどん流出していきます。
いわば、資金の先食い。
しかも日本は、1年間に大きな都市がまるごと1つ消えるような規模で人口が減っている社会です。
お客さんの数そのものが毎年減っていくなかで、客数を増やす戦いはコストばかりかさみます。
たちばなはじめは、コストが上がって利益が薄くなった会社ほど「売上を増やして取り返す」戦略を選んではいけない、と一貫して伝えてきました。
ただでさえ転嫁できないコストで手元資金が細っているのに、そこへ客数を増やす費用を重ねたら、売上より先に資金が尽きてしまいます。
上げるなら客数より客単価
では、どうすればいいのでしょう。
売上に手をつけるなら、客数ではなく客単価。
つまり、あきらめずに値上げ・価格転嫁の側に力を注ぐことです。
幸い、いまは世の中全体で物価が上がっている局面ですから、以前に比べれば値上げを受け入れてもらいやすい環境と言えます。
ラーメン1杯が2,000円近くても行列ができる時代です。
もちろん、値上げをすれば一部のお客さんは離れていくでしょう。
「それが怖くて言い出せない」という声もよく聞きます。
ですが、すべてのお客さんがいなくなることは考えにくい。
残ってくれたお客さんを大事にしながら、上げた単価で誠実に仕事をするほうが、新しいお客さんを追いかけるより資金の負担ははるかに小さくなります。
先ほどの中小企業庁の調査でも、交渉のテーブルにつくこと自体は9割まで広がっています。
1回で満額を目指す必要はありません。
原価の資料を揃えて、半年ごとに少しずつ交渉を重ねていきましょう。
労務費のような通りにくい項目こそ、根拠の数字を示して粘り強く伝え続けることが大切です。
それでも埋まらない分は資金繰りそのものを見直す
とはいえ、交渉を重ねても転嫁しきれない分は残ります。
その穴を埋めようと無理な拡大に走るのではなく、資金繰りそのものに手を入れるのが正しい順番です。
具体的には、まず現金の流れを毎日つかむことです。
いつ、いくら入って、いくら払うのか、そして転嫁できないコストがどれだけ手元資金を削っているのかを、数字で確かめてください。
たちばなはじめ自身、かつて経理まかせで数字を見ない経営をしていた時期があります。
資金繰りが苦しくなったことをきっかけに会計を学び直し、現金の流れを毎日追いかける日々を送りました。
そこから生まれた教えが、「事業の根幹は事業ではなく会計にあり」。
現金の流れが見えると、打つ手の優先順位が変わります。
返済の負担が重いなら、金融機関への向き合い方を見直す余地があります。
支払いのサイクルと入金のサイクルがずれているなら、取引条件の調整で改善できることもあります。
資金繰り表を月単位ではなく日単位でつけてみると、手元資金が細る時期が事前に見えてきます。
コスト高の局面は、あなたの会社だけの問題ではない。
だからこそ、取引先も金融機関も、事情を数字で示されれば話を聞く体制ができています。
手元資金が細ってから慌てるのではなく、余力があるうちに動き出しましょう。
まとめ
価格転嫁の交渉は9割の会社がやっています。
それでも通るのは半分です。
通らなかった分を「売上を増やして稼ぐ」で埋めようとすると、コストが先に立って資金繰りを悪化させます。
力を注ぐのは、客数より客単価です。
そして、転嫁しきれない分は現金の流れを毎日つかんで、資金繰りの組み立てを見直すことです。
売上を追う前に、資金を守る。
この順番を間違えないでください。
私たちは、資金繰りだけではなく、金融機関との向き合い方や取引条件の見直しについてのご相談も受け付けています。
転嫁できないコストが手元資金を削っていると感じたら、まずは一度ご相談くださいね。
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