2026年10月、訪問看護ステーションが増え続ける一方で、廃業する事業所も増えていると報じられました。
全国訪問看護事業協会の調べでは、2026年4月1日時点で動いている事業所は2万51か所。
初めて2万か所を超えましたが、2025年度の1年間には960か所が廃止、328か所が休止しています。
報じた週刊大阪日日新聞の記事では、続けにくくする要因として、看護師の採用と定着の難しさや、管理者を育てる仕組みの不足が挙げられています。
看護の質が良くても、事業として続けられるとはかぎらない。
訪問看護を経営しているあなたも、職員が辞めるたびに、この先を不安に感じたことがあるかもしれません。
では、なぜ看護の質が良くても続けられないのでしょうか。
訪問看護ステーションの廃止はこの10年で最多
全国の数字は次のとおりです。
2026年4月1日現在、訪問看護ステーションの稼働数は2万51か所(前年は1万8,754か所)。2025年度中に新しく開いた事業所は2,428か所、廃止は960か所、休止は328か所だった。開いたその年度のうちに廃止した事業所も87か所あった。
— 一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和8年度 訪問看護ステーション数 調査結果」より要点を整理
同じ調査で過去の廃止の数をたどると、10年前の2016年度は462か所でした。
2021年度の490か所からは毎年増え、2025年度は960か所になっています。
10年前の2倍を超え、少なくともこの10年でいちばん多い数です。
1年で廃止された960か所は、前年4月時点で動いていた1万8,754か所の約5%にあたる数。
ただし、廃止した事業所がなぜ閉じたのか、事業そのものをやめたのかまでは、この調査からは分かりません。
ここからは、記事の取材とお金の流れから見ていきます。
職員が1人辞めるだけで基準を割り込みかねない
訪問看護ステーションは、看護職員を常勤換算で2.5人以上置くことが、国の基準で決められています。
常勤換算とは、パートの人も含めた勤務時間を、常勤の人数に置きかえた数のことです。
厚生労働省の審議会の資料では、2024年の推計で、看護職員が常勤換算で5人未満の事業所は55.2%と半数を超えています。
なかでも、基準ぎりぎりの2.5人以上3人未満が15.5%。
こうした事業所では、1人が辞めるだけで基準を割り込みかねません。
記事に登場する経営支援の会社の社長は、看護師の仲間3人ほどで独立するケースをよく見かけるといいます。
ところが、利用者が増えて4人目を採っても続かない、という話を事業者からよく耳にするそうです。
記事によると、立ち上げたばかりのころは、利用者を集めるために24時間・365日の対応を掲げがちだといいます。
創業した仲間どうしなら、夜間や休日の対応も思いを分け合って乗り切れても、同じ働き方をあとから入った人に求めれば働き方のずれが生まれる、と経営支援の会社の社長は話しています。
しかも、人を採ること自体が、ほかの職場より難しい。
日本看護協会が、全国のナースセンターに登録された求人と求職をまとめた分析では、2024年度の求人倍率は2.51倍でした。
施設の種類別でいちばん高いのが訪問看護ステーションで、4.54倍です。

給料は先に出ていき報酬は約2か月後に入る
お金の面でも、訪問看護ならではの難しさがあります。
まず、医療保険や介護保険を使う訪問の基本の料金は国の決まりで定められていて、人件費が上がっても、自分で値上げして吸収することはできません。
もう一つは、報酬が入ってくるまでの時間です。
医療保険も介護保険も、訪問した月の分を翌月にまとめて請求し、お金が入るのはさらにその翌月。
その間も、看護師の給料や社会保険料、事務所の家賃、訪問に使う車の費用は、毎月先に出ていきます。
たちばなはじめは、多くの商売の現実を「支払いが早く、入金が遅い(常に“立て替えている”状態)」と書いています。
自身も石油製品の卸・小売を営んでいたころ、仕入れは翌月末払い、お客からの回収は翌々月以降で、「勘定合って銭足らず」が当たり前だったといいます。
この立て替えがいちばん膨らむのは、利用者が増えて人を増やすとき。
たとえば、月30万円の給料で看護師を1人増やしたとします。
給料は採用した月から毎月出ていきますが、その人が訪問した分の報酬が入り始めるのは、訪問を始めた月の2か月後。
この例でいえば、報酬が入り始めるまでの2か月分、60万円の給料を手元のお金で立て替えることになります。
求人の費用も、先に出ていきます。
そして、その人が数か月で辞めてしまえば、採用にかけたお金は戻らず、また一から人を探すことになります。
「4人目が続かない」は、人の問題であると同時に、お金の問題でもある。
反対に、職員が辞めたときは、その月から訪問の数が減っても、通帳の入金が減るのは2か月ほどあとになります。
通帳だけを見ていると、減り始めたことに気づくのが遅れます。
たちばなはじめは、「収支は合っている」とだけ見て入金と支払いの時期のずれを見ていないと、ある日「あれ?現金が足りない!」と金策に走り回る事業主が多いと書いています。
帳簿の上では赤字でなくても、現金のほうが先に足りなくなるのです。
頑張った分だけ会社にお金が残るわけではない
記事の中で、訪問看護の事業所を経営する別の会社の社長は、看護の腕が高ければ利用者は自然に集まり、会社も続くと思っている管理者が多いと話しています。
看護の質は欠かせないが、事業として続けるには経営という別の力が要る、と経営支援の会社の社長も強調しています。
たちばなはじめも、商売の成否は数字で評価されるとして、メルマガにこう書いています。
「その数字の評価は、当事者が汗を流した量に比例しないし、また、当事者がかけた手間暇に比例しない。」
夜中の電話に走り、休みの日も利用者のために動いても、その頑張りの分だけ会社にお金が残るとはかぎりません。
だからこそ、たちばなはじめは「事業の根幹は事業にはなく会計にある」と言い切ります。
会計を学問として学べ、という話ではありません。
1日のうち30分を会計の時間にあてれば、帳簿の見え方が変わり、対処のしかたが変わり、資金繰りも変わる、というのがたちばなはじめの考え方です。

人を増やすなら立て替えのお金を先に用意する
利用者が増えて人を増やすなら、採用を決めるまでに出しておきたい数字が3つあります。
- 給料と社会保険料、家賃、車の費用、借入の返済など、毎月出ていくお金の合計を出す
- 新しく雇う人の給料と社会保険料、求人の費用を、報酬が入り始めるまでのあいだ、手元のお金で払えるかを確かめる
- 職員が1人辞めたとき、毎月の報酬がいくら減り、手元のお金が何か月で足りなくなるかを出しておく
2は、先ほどの例なら、給料2か月分の60万円に、社会保険料と求人の費用を足した額です。
ひとりで訪問できるようになるまで、ほかの看護師と一緒に回る期間があるなら、その分も上乗せして見ておきます。
2で足りないと分かれば、その採用は、借入で穴を埋めながら進めることになります。
借りたお金で増やした人が続かなければ、返済だけが残ります。
足りないときは、採用の時期と新しい利用者を受けるペースを、手元のお金に合わせて見直すことも考えてください。
採用だけを遅らせると、今いる職員に負担が寄ります。
3を出しておけば、基準を割り込みそうになってから慌てずに、次の手を落ち着いて選べます。
職員の頑張りに頼らず先にお金の段取りをつける
記事では、患者のためにと自分の負担が増えても動いてしまう人が多く、その善意を個人の頑張りだけで支え続ければ、いずれ職員も会社も疲れ切ってしまう、という声も紹介されていました。
資金繰りも同じです。
社長が自分の給料を削り、職員の頑張りでなんとか月末を越える。
そうしたやりくりは、職員が1人辞めただけで回らなくなりかねません。
人を増やすために借りたお金があると、月末が苦しいときほど、銀行への返済を先に守りたくなるかもしれません。
ただ、借入の返済を守るために、職員の給料を削ったり遅らせたりするのは、順番が逆。
たちばなはじめは、借りたお金を返すために従業員の給料を遅らせるのは「全くナンセンス」だと話しています。
給料を払い、利用者への訪問を続けたうえで返済が苦しいなら、お金が残っているうちに相談に来てほしいのです。
お金が残っているうちに、と言うのは、閉じるときにもお金が要るから。
記事では、事業所が閉じれば、利用者一人ひとりが主治医やケアマネジャーと相談しながら、別の事業所を探さなければならないとも伝えています。
廃止の届け出をして利用者の引き継ぎを終えるまでは、給料や家賃が出ていきます。
どうしても続けられないときでも、手元にお金が残っていれば、職員に給料を払い、利用者の移り先を探す時間をつくれます。
続けるにしても閉じるにしても、決め手になるのは手元に残っているお金。
人を増やすときの資金繰りや、介護の事業所の閉じ方については、次の記事でも取り上げています。
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