2026年9月、東京商工リサーチが、百貨店向けの高級生地卸が破産に至った経緯を紹介しました。
ピーク時の年商は10億円。
ヨーロッパから輸入した生地を、百貨店に入っているブランドに卸していた会社です。
目を引くのは、新しく育てたスポーツ衣料の部門が伸びていたことです。
それでも、会社は倒れました。
本業の縮小だけが原因ではありません。
伸びていた柱が崩れたあと、対応が間に合わなかったことが重なっています。
新事業がうまくいっている社長ほど「うちは大丈夫」と考えがちですが、本当にそうでしょうか?
この会社に何が起きたのか、順番にお伝えしていきます。
年商10億円の生地卸が破産に至った経緯
まず、記事で紹介された経緯を要点だけまとめます。
ヨーロッパからの輸入生地を百貨店テナントのブランドに卸し、ピーク時の年商は10億円。コロナ禍で百貨店の売上が落ち込み、主力事業は不振に陥って年商は数億円まで減少した。百貨店は2026年以降、全国で8店舗が閉店予定。主要58社のうち上位20社では、15社が2025年度の売上高を前年度より落としている。一方で、スポーツ用衣料品の部門は強みを生かして成長していた。ところが、その部門の従業員の一部が退職。その後、販売不振から在庫過多、資金繰りの悪化へと進み、代表者の役員報酬を引き下げても対応しきれず、破産を申請した。
— 2026年9月、東京商工リサーチ「TSRデータインサイト」の記事より要点を引用
縮む本業、育つ新事業、担当者の退職、在庫、資金繰り、役員報酬の引き下げ、そして破産。
この流れは、生地卸に限った話ではありません。
私たちのもとへ寄せられる相談でも、順番がほぼ同じというケースは少なくないんです。
そして、流れを変えられる場面は、この会社にもあったはずです。

新事業は任せても数字は手放してはならない
本業が縮み、新事業が伸びる。
会社の中で力の入れどころが変わると、伸びている部門の実務も数字も、その部門の担当者に集まっていきます。
記事も、新旧の事業が社内で分かれてしまったことの影響に触れています。
ただ、社長にとっての本当の問題は、社内が分かれたことそのものではありません。
伸びている部門の売上と数字が、担当している社員に丸投げになっていなかったか、という点です。
たちばなはじめは、「任せる」と「委ねる」は違うと伝えています。
任せるとは、社長が中身を理解し、方針を出したうえで担当者に渡すこと。
委ねるとは、丸投げのことです。
営業も実務も、デザインも管理も、担当者ができる仕事です。
ところが、社長にしかできない仕事が2つあります。
資金の流れを管理すること、そして決めることです。
担当者が辞めた瞬間に、その部門の売上がどれだけ減るのか。
仕入れをいつ止め、在庫をいくらまでに抑えるのか。
これを決められるのは、社長だけです。
数字を握っていない社長は、決めるべきタイミングに気づけません。
気づいたときには、在庫という形で現金が倉庫に眠っています。
在庫は、現金が形を変えたもの。
売れなければ、お金には戻りません。
たちばなはじめ自身、かつて燃料油の卸・小売を中心に複数の事業を営んでいた時期があります。
もともと会計は経理まかせで、自分で細かく数字を追ってはいませんでした。
売上と利益さえ見えていれば事業は回る。
そう思い込んでいたのです。
ところが、資金繰りが少しずつ苦しくなってきたことをきっかけに、自分で会計を学び始め、数字を直接把握するようになりました。
ですが、その努力は実らず、結果的には多額の負債を抱えて、事業は破綻してしまいます。
この経験から、たちばなはじめが繰り返し説いているのは「事業の根幹は事業ではなく会計にあり」という教えです。
数字をおろそかにしたことが、事業を窮地に追い込んだ入口だった。
だからこそ、あなたには数字から目をそらさないでほしいのです。
なぜ役員報酬を下げても間に合わないのか?
記事の会社は、代表者の役員報酬を引き下げても対応しきれなかったとあります。
資金繰りが苦しくなった社長が最初にやることは、たいてい同じです。
自分の給料を下げる、あるいは遅らせる。
次に、従業員の給料や人数に手をつけます。
それから値上げをお願いし、取引先に「5日だけ待ってほしい」と頼みます。
そして、それでも金融機関への返済だけは続けるんです。
気をつけていただきたいのは、この順番です。
しわ寄せは、家族、従業員、お客、協力企業と、身近な相手から順にかぶっていきます。
いちばん最後まで守られているのが、銀行への返済。
たちばなはじめの「お金の優先順位」は、これとは逆です。
- 家族
- 従業員
- お客
- 協力企業
- 銀行
家族・従業員・お客様・協力企業を守るのが先で、銀行への返済は一番最後にする。
これがたちばなはじめのコンセプトです。
役員報酬を削って返済を続ける状態は、家族の生活費で銀行を守っている状態にほかなりません。
短期なら、持ちこたえられるかもしれません。
が、売上が戻る見込みのないまま続ければ、会社のお金も家のお金も、両方が減っていきます。
役員報酬を下げるより先に見直すべきは、金融機関への返済のほう。
「銀行への返済を後回しにしたら、もう貸してもらえなくなる」と思われるかもしれません。
ですが、家族の生活費で穴を埋めながら返している状態では、次の融資も難しいのが実情です。
だからこそ、給料を削り続ける前に、返済の条件を金融機関に相談する。
その順番が先なのです。

お金が残っているうちに決める
記事の会社が、担当者の退職から破産申請までにどれだけの時間があったのかはわかりません。
ただ、販売不振、在庫過多、資金繰り悪化、役員報酬の引き下げと、段階がいくつもあったことは確かです。
その段階のどこかに、決める機会はあったはずです。
仕入れを絞る、部門を縮める、返済の条件を金融機関と話し合う。
あるいは、お金が残っているうちに、事業のやめ方を考えるという道もあります。
どれを選ぶにしても、必要なのは手元の現金です。
たちばなはじめは、資金繰りを水がめにたとえて話します。
我慢すればするほど、水がめの水は減っていく。
残っているうちにやらなければならない、というわけです。
資金繰りは、我慢してはいけません。
症状が軽いうちに手を打てば早い段階で改善しますし、痛手も小さくて済みます。
我慢し続けている自分に酔ってはいけない。
たちばなはじめは、そう言い切ります。
そして、決めるのは社長の仕事です。
家族や従業員に嫌われることを怖がって決められないでいる間にも、現金は毎月出ていく。
判断が遅いほど、資金は逃げていくんです。
とはいえ、「もう在庫も現金も限界に近い」という方もいらっしゃるでしょう。
そんな状態でも、諦めるのはまだ早いです。
残っているお金と時間で何ができるかは、状況によってまったく違います。
事業をたたむと決める前に、選べる道を一通り知っておいてほしいのです。
まずは手元の現金と在庫の数字を確かめる
新事業が育っていても、会社は倒れます。
売上をつくるのは担当者でもできますが、現金の流れを管理して決めるのは、社長にしかできません。
担当者が辞めたら、在庫が増え始めたら、役員報酬を下げようと思ったら、そのどれもが決めるタイミングのサインです。
自分の給料を削って返済を続ける前に、返済のほうを見直せないか。
お金が残っているうちに、何を選べるのか。
まずは、手元の現金と在庫の数字を確かめてください。
苦しいときの新事業や、社長のポケットマネーの話は、次の記事でもくわしく取り上げています。
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お金が残っているうちに決めることが、いちばんの解決策です。
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