会社や事業を次の世代へ引き継ぐ動きが、いま全国で加速しています。
M&Aや事業承継の件数は、2025年度に過去最多を更新しました。
その担い手の多くは、後継者をどうするかで長く悩んできた中小企業の社長たちです。
この流れのなかで、急に注目を集めているのが「自社株をどう渡すか」という論点です。
株価が上がりきる前に贈与したい、株が分散しないようにしたい、後継者以外の家族とのバランスも崩したくない。
こうした「自社株承継の落とし穴」も、最近あちこちで語られるようになりました。
ですが、私たちが支援の場で何度も見てきた本当の落とし穴は、自社株そのものよりも手前にあります。
渡す準備で多くの社長が後回しにしてしまうのが、会社に残った借入金と、社長個人が背負う保証の存在です。
では、なぜ自社株より先に、この負債と保証へ手をつけたほうがいいのか。
順番に見ていきます。
事業承継が過去最多 自社株への注目が高まる背景
まず、いま起きていることを押さえておきます。
2025年度のM&A・事業承継は、件数のうえで過去最高の水準に達しました。
そのいちばんの理由は、後継者不在に悩む中小企業が、第三者への譲渡や親族内の承継に本格的に踏み出し始めたこと。
AIで「2025年度 M&A 事業承継 過去最多」について調べてみると、次のような解説が出てきます。
2025年度の日本のM&A件数は前年度を上回り、過去最高を更新したとされています。
件数増加の大きな要因として「事業承継」での活用が挙げられ、後継者不在の中小企業による第三者承継や親族内承継が市場を押し上げていると解説されています。
— AI検索で「2025年度 M&A 事業承継 過去最多」について調べた際の解説より引用
承継が現実の選択肢になると、社長の意識はまず「株式」に向かいます。
会社の支配権そのものですから、当然といえば当然のことです。
株価が低いうちに動いたほうが税負担は軽くなりますし、株が兄弟姉妹に分かれれば、後継者の経営判断は不安定になりかねません。
だから「自社株をどう渡すか」は、たしかに大事な論点です。
ただ、そこに気を取られすぎると、もっと足を引っ張る存在を見落としてしまう。
自社株の前に立ちはだかる「個人保証」という足かせ
私たちが相談を受けるなかで、後継者が承継をためらう理由として繰り返し挙がるものがあります。
会社の借入金に、社長が差し入れている経営者保証です。
本来、会社という法人と、社長個人は別の人格。
有限責任が原則で、会社が傾いても個人の生活までは巻き込まれない、というのが世界的な考え方です。
ところが日本では、会社の借入金に社長個人の保証をつける慣行が長く続いてきました。
その結果、せっかく株という資産を引き継いでも、後継者は親の保証という負債ごと背負う形になってしまうのです。
「親の代の保証まで引き受けたくない」と、子世代が承継を断るケースは決して珍しくありません。
株は資産、保証は足かせ。
この二つを切り離さないまま渡そうとすると、承継そのものが途中で行き詰まります。
第三者へ会社を売るときも、根っこは同じです。
社長個人の保証が残っていると、それが買い手にとっての重荷になり、価格や条件の交渉でつまずく原因にもなりかねません。
渡す順番が逆になっていないか
多くの承継準備は、「株をどう渡すか」から始まります。
評価額を抑える、贈与のタイミングを計る、分散を防ぐ。
どれも必要な検討ではありますが、この順番だと足かせが残ったままになりがちです。
私たちがお伝えしているのは、その逆の順番です。
先に会社の借入金と経営者保証の現在地を確かめ、引き継がせない負債を整理してから、身軽になった会社を渡す。
たちばなはじめが繰り返し使う言い方に、「会社を継がせるのではなく、事業を継がせる」というものがあります。
借入や保証を抱えたままの会社をそのまま背負わせるのではなく、健全な中核の事業だけを、きれいな形で次へ渡すという設計です。
実際、私たちが支援してきたなかにも、こんなケースがありました。
ひとつは、資金繰りに苦しむ会社を子どもに継がせることへ強い抵抗を抱えていた社長が、承継の前に負債と保証の処理に決着をつけ、負担を持ち越さない状態で引き継いだケースです。
もうひとつは、息子への承継を望みながら、息子の側が負債の承継を拒んでいた社長が、「会社は継がせず、事業を継がせる」形に組み替えて踏み出したケースです。
共通しているのは、株の話より先に、負債と保証の足かせを外していたこと。
順番をひとつ入れ替えるだけで、後継者が見る景色は大きく変わります。
経営者保証を外したいなら、リスケに入る前に
では、その経営者保証はどうすれば外す道が開けるのでしょうか。
ここで知っておきたいのが、経営者保証に関するガイドラインです。
法的な拘束力こそありませんが、金融機関が自主的に守るルールとして、一定の要件を満たせば保証なしの融資が検討されます。
要件の柱は、法人と個人の資産・経理がきちんと分かれていること、返済能力があること、そして適切な情報開示がなされていることです。
ここで見落とされがちなのが、返済能力という条件の重さです。
すでにリスケジュール、つまり返済条件の緩和に入っている会社は、この「返済能力あり」という条件を満たしにくくなります。
月々の負担を軽くする延命策に見えて、その実、経営者保証を外す道を自ら細めてしまう一面がある。
もうひとつ、見落とされやすい問題があります。
リスケジュールで一定期間をやり過ごしたあと、通常の返済に戻し、利益を出して存続している会社は、私たちの経験ではほとんど見当たりません。
月々の負担を軽くしたぶん、事業の構造的な課題に手をつける時間と気力が奪われ、リスケ期間が終わるころには次の延長を申し入れざるをえないのです。
厳しい話に聞こえるかもしれませんが、これが実情です。
もし信じられないようでしたら、お付き合いのある銀行員や税理士に、「リスケから通常返済に戻して、利益を出して続いている会社は、どのくらいありますか」と尋ねてみてください。
多くの方が、「ほとんどない」と答えるはずです。
承継を見据えて保証を外しておきたいなら、勝負どころはリスケに踏み込む前です。
家や土地を守りたいと考えている社長ほど、リスケの前に一度立ち止まって考えてみてほしいところです。
自社株より先に、家族の生活基盤を平常時に守る
負債と保証を切り離す準備は、家族を守る準備とひとつながりです。
会社の非常時に、社長個人の自宅や預金、生活の土台が巻き込まれない構造を、業績が良いうちに組み立てておく必要があります。
根抵当の設定がどうなっているか、自宅と事業所の名義は分かれているか、事業用の資産と個人用の資産が混ざっていないか。
こうした点は、追い込まれてからでは動かしづらくなります。
株価対策や贈与の段取りに目が向きがちな承継準備のなかで、いちばん後回しにされやすいのが、この平常時の備えです。
けれど、後継者と家族のその後を左右するのは、株式の評価額そのものよりも、引き継いだ会社に足かせが残っているかどうかのほうです。
承継の論点が広がる前に、現在地を確かめる
事業承継は、株式の評価、契約、税務、そして借入金と保証の扱いまで、論点が一気に広がるテーマです。
だからこそ、論点が広がりきる前に、手をつける順番を決めておくことが大切になります。
株をどう渡すかを考え始める前に、まずは会社の借入金と経営者保証が、いまどうなっているかを一度棚卸ししてみてください。
後継者に負債を引き継がせない承継は、平常時のうちに動き始めるほど、設計しやすくなります。
もし少しでも気にかかることがあれば、まずは一度ご相談くださいね。
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