「会員があと50人増えれば、黒字になるのに」
小さなジムを経営している社長なら、一度はこんな計算をしたことがあるかもしれません。
2026年9月、東京商工リサーチが、フィットネスクラブの倒産が1-8月で26件にのぼり、同じ期間として過去最多を更新したと公表しました。
倒産したジムの7割超は「販売不振」、つまり会員が思うように集まらなかったケースです。
ですが、会員が少ないというだけで、会社が倒れるわけではありません。
会社が倒れるのは、会員が増えるのを待っている間に、手元のお金が尽きたときです。
では、会員が集まらないジムは、どこでお金を失っていくのか。
フィットネスクラブの倒産が1-8月で過去最多
まずは、東京商工リサーチの調査結果を見てみましょう。
2026年1-8月の「フィットネスクラブ」の倒産は26件(前年同期比160.0%増)と、前年同期の2.6倍に達し、2023年同期の16件を抜いて過去最多を更新した。現在のペースで推移すると、2026年は年間最多の2023年の27件を上回り、40件台も視野に入ってきた。原因別では「販売不振」が19件(構成比73.0%)で最多。従業員数別では「5人未満」が23件(同88.4%)、負債額別では「1千万円以上5千万円未満」が19件(同73.0%)を占めた。
— 東京商工リサーチ「フィットネスクラブ」の倒産動向調査(2026年9月7日公表)より
コロナ禍の間、フィットネスクラブの倒産はコロナ関連の支援に下支えされ、2020年1-8月は9件、2021年同期は3件にとどまっていました。
流れが変わったのは、コロナ後です。
健康志向の高まりを受けて、省スペースで低価格の24時間ジムや、マンツーマンで指導するパーソナルジムなど、さまざまな形のジムが一気に増えました。
そこへ、テナント料や光熱費、トレーナーの人件費の上昇が重なります。
ほかのジムとの違いを出すための「入会金無料」といったサービスにもお金がかかり、それでいて会員はなかなか定着しない。
東京商工リサーチは、参入しやすさが激しい競争を招いているとして、業績が振るわないジムの淘汰が今後本格化する可能性が高いと分析しています。
見逃せないのは、倒れているジムの顔ぶれです。
26件のうち、従業員5人未満が23件、資本金1,000万円未満が24件。
過去の赤字が積み重なった「既往のしわ寄せ」による倒産も、前年同期のゼロから3件に増えました。
数字からは、小さく始めたジムが赤字を抱えたまま続け、倒れていく実態が見えてきます。

小さなジムが抱えやすいお金の事情
ジムの商売には、ほかの業種とは違うお金の特徴があります。
まず、開業した月から、出ていくお金が大きいことです。
トレーニングマシンはリースで揃え、内装費や敷金は開業資金の借入でまかなうジムも多いでしょう。
会員がまだ少ないうちから、家賃やリース料、借入の返済が毎月決まって出ていきます。
一方で、売上はほぼ「会員数×会費」で決まります。
近くに大手の低価格ジムができれば、会員はそちらへ流れていくかもしれない。
キャンペーンで集めても、定着しなければ会員数は積み上がりません。
さらに、小さなジムでは、社長自身がトレーナーとして現場に立っていることも珍しくありません。
朝から晩までセッションに追われて、お金の流れをじっくり確かめる時間がなかなか取れない。
「会員さんの体を変えたい」という思いで始めたジムだからこそ、通ってくれる会員の顔が浮かぶと、赤字でも手を止められないんですね。
その気持ちは、本当によくわかります。
ですが、その思いが強いほど、「もう少し頑張れば会員は増える」と、赤字を抱えたまま続けてしまいがちです。
ジム経営の赤字は本業か返済か?
赤字が続いているとき、最初に確かめてほしいのは、その赤字がどこから生まれているかです。
ここでいう赤字とは、毎月入ってくるお金より、出ていくお金のほうが多い状態のことです。
会員が集まらないジムの赤字は、大きく2つに分かれます。
1つ目は、本業では稼げているのに、借入の返済とリース料を払うと手元にお金が残らないケース。
2つ目は、会費収入で家賃や人件費、光熱費すらまかなえず、本業そのものが赤字になっているケースです。
具体的な数字に置き換えてみます。
たとえば、会費収入が月150万円のジムがあるとします。
家賃、社長とスタッフの人件費、光熱費といった本業の経費が月100万円なら、本業のもうけは50万円です。
ところが、開業資金の返済が25万円、マシンのリース料が20万円あると、手元に残るのはわずか5万円。
会費収入の3割が、返済とリース料に消えている計算です。
ここで会員が20人減り、会費収入が15万円下がったら、どうなるでしょうか。
本業のもうけは35万円に落ち、返済とリース料の45万円を払うと、毎月10万円が足りなくなります。
本業は黒字なのに、お金は毎月減っていく。
これが1つ目の赤字です。
さらに会員が減って、会費収入が本業の経費100万円を下回れば、2つ目の赤字に入ります。
こうなると、返済のお金どころか、社長や家族、スタッフの生活を支えるお金すら、本業から生まれていない状態です。
赤字を自腹と借入で埋め続けてはならない
毎月10万円が足りなくなったとき、多くの社長がやってしまうのが、自分の貯金やカードローン、新たな借入で埋めることです。
「会員が戻るまでの辛抱だ」と自分に言い聞かせながら、毎月の穴を埋めていく。
ですが、足りない10万円は、半年続けば60万円。
1年続けば120万円にも膨れ上がります。
借入で埋めれば、その返済が毎月の支払いにさらに上乗せされ、、、
足りない額は、月を追うごとに大きくなっていきます。
過去の赤字が積み重なって会社の体力を奪う「既往のしわ寄せ」は、こうして生まれるんです。
たちばなはじめは、「資金繰りは我慢してはいけない」と言います。
症状が軽いうちに手を打てば、早い段階で立て直せるし、痛手も小さくて済むからです。
我慢し続けている自分に酔ってはいけない、とも。
大切なのは、赤字を埋め続けることではなく、赤字そのものを止めることです。

赤字の種類ごとにやるべきこと
本業が黒字なら返済の重さを見直す
1つ目の赤字なら、ジムそのものは稼げています。
問題は、稼ぎに対して返済とリース料が重すぎることです。
この場合、広告やキャンペーンで会員集めに走る前に、金融機関との交渉方法を見直し、返済の負担そのものを変えることを考えます。
そのとき忘れてはいけないのが、お金の優先順位です。
たちばなはじめの考える優先順位は、次の5つです。
- 家族
- 従業員
- お客
- 協力企業
- 銀行
ジムでいえば、お客とは会費を払って通ってくれる会員のことです。
返済を守るためにスタッフの給料や会員へのサービスを削れば、会員はますます離れていきます。
銀行への返済は、一番最後。
この順番を崩さないことが、立て直しの前提になります。
本業が赤字なら見切りも考える
2つ目の赤字は、会費収入で日々の経費すらまかなえていないので、返済を見直しただけでは止まりません。
ここで残りのお金を広告やキャンペーンにつぎ込んでも、先にお金が出ていくだけで、会員が戻るとは限りません。
たちばなはじめの言葉に、「継続は力ではあるけれど、見切りも力」というものがあります。
赤字を止める目途が立たないなら、続けるのか、形を変えるのか、区切りをつけるのかを、早めに考えるべきです。
どれを選ぶにしても、お金が残っているうちのほうが、選べる道は断然多いんです。
赤字を抱えたまま会員を待たない
フィットネスクラブの倒産が過去最多のペースで増えるなか、倒れているのはほとんどが小さなジムです。
「会員があと50人増えれば、黒字になるのに」
そう考えている間にも、手元のお金は毎月減っていきます。
赤字が続いているなら、手元にお金が残っているうちに、その赤字が本業から生まれているのか、返済から生まれているのかを確かめてください。
すでに自腹や借入で穴埋めを続けている社長も、諦めるのはまだ早いです。
倒産や破産をせずに解決できる可能性を、私たちは最後まで一緒に探ります。
ジムの経営については、次の記事でもくわしく取り上げています。
- 会費の安売り競争と価格を守る判断:フィットネスジム倒産が最多ペース…会費の安売り競争に巻き込まれてはいけない
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