経営者保証の解除を断られたら──次の交渉までに準備したい材料と話し方

融資の担当者に経営者保証の解除を申し出たものの、思うような返事が返ってこなかった。

「もう少し利益が安定してから」「他行さんとの調整もあるので」と保留にされ、結果として解除には至らなかった──。

こうした場面で立ち止まったままになっている経営者の方は、決して少なくありません。

経営者保証ガイドラインの3要件を満たせば外せると聞いて準備を進めてきたのに、現場では一度断られて足踏みになるケースが多いのが実情です。

この記事では、解除を一度断られた経営者の方が、次の交渉までに用意しておきたい材料と、金融機関の担当者と話すときの組み立て方を、まとめてお伝えしていきます。

目次

経営者保証の解除を断られる主な理由

経営者保証の解除は、申し出ればすぐに通るものではありません。

金融機関の側にも、保証を外すための判断材料を内部で組み立てる時間が必要になります。

まずは、現場でよく耳にする「断られる理由」から見ていきましょう。

法人と経営者の資産・経理の区分が明確でない

経営者個人と法人のあいだで、お金や資産の出入りがあいまいになっていると、保証を外す前提が崩れます。

たとえば社長個人の経費を法人で立て替えていたり、役員報酬の額や支給時期が決算期ごとに大きくぶれていたりすると、金融機関は「いざというとき、法人だけで判断材料が完結しない」と読み取ります。

このあたりは、顧問税理士の決算書類のつくり方とも深く連動するため、税理士と一緒に見直しておきたいところです。

直近の財務基盤が「保証なしでも返せる」と読み取れない

営業利益・当期純利益・キャッシュフローの推移、自己資本比率、有利子負債と返済原資のバランス。

このあたりが、保証なしで貸し出せる水準に見えるかどうかが、金融機関の内部で点検されます。

3期分の決算が回復基調にあるか、コロナ禍や物価高で一時的に落ちただけと説明できるか、というところを担当者は見ています。

赤字決算が直近で続いていたり、メイン取引先への依存度が高くて資金繰りの読みが立ちにくい場合、解除の判断は先送りされやすくなります。

経営の透明性──情報開示の量と質

月次試算表や資金繰り表を、定期的に金融機関へ提出しているかどうか。

大口の取引先の状況、補助金の運用、設備投資計画など、担当者が「次の決算を待たなくても会社の現在地が見える」状態になっているかどうか。

この点が薄いと、保証を外したあとに業績が急変したら何が起きるか、というシナリオが金融機関側で描けません。

断られた背景には、ガイドラインの要件に照らしてどこが足りないと判断されたかが、必ずあります。

その理由を担当者から具体的に聞き出さずに次の交渉に進んでも、同じ結論に行き着くだけになりやすいのです。

次の交渉までに用意したい材料

断られた直後にやるべきことは、感情的に「次の銀行へ」と切り替えることではありません。

まずは、断られた理由を担当者から具体的に引き出し、その要因に対する一次資料を社内で揃え直すことです。

直近3期の財務改善ストーリーを書面化する

決算書をただ並べるのではなく、「どの期に何が起きて、どの期から改善トレンドに入ったか」を、ひと続きの物語として書面化しておきます。

たとえば、コスト構造の見直しで粗利率がどう変わったか、不採算事業を切り離した時期、主力商品の利益貢献度の変化など、担当者が稟議書に落とし込みやすい形でまとめておきましょう。

金融機関は、社内で稟議を上げる側です。

そこで使える材料を、こちらから渡しておくイメージで準備します。

事業計画書を「保証なしで返せる根拠」とセットで書く

単に売上目標を並べた事業計画書ではなく、「この計画で進めば、今の融資は経営者保証がなくても法人だけで返済できる」という根拠を、数字でセットにして書き添えます。

営業キャッシュフロー、借入返済額、設備更新の予定、人件費の推移など、担当者が稟議で問われやすい論点に先回りして答えておくと、内部審査が前に進みやすくなります。

「数字の出し方を考える」というより、「担当者が本部に説明する場面で困らないだけの材料を用意する」という意識で書くと、過不足のない計画書になります。

顧問税理士と歩調を合わせる

法人と個人の区分、決算書の表現、月次試算表のフォーマット。

このあたりは、顧問税理士の側にすでに蓄積があるはずです。

経営者おひとりで進めるよりも、税理士に経営者保証ガイドラインの3要件を踏まえた見直しを依頼し、書面づくりを一緒に進めると話が前に進みやすくなります。

担当者の側も、第三者の専門家が関与している案件のほうが、内部稟議で通しやすくなる傾向があります。

金融機関への話し方──断り文句の裏側を読む

「もう少し利益が安定してから」「他行さんとの調整も」というような表現で保留にされると、次のステップが見えにくくなります。

けれど、その断り文句のなかには、金融機関の内部事情のヒントが隠れていることが多いのです。

「もう少し利益が安定してから」の裏側

これは、現在の財務指標が稟議基準にあと一歩届いていないというサインのことが少なくありません。

「どの指標が、どの水準まで来れば前向きに検討できますか」と、担当者にあらためて尋ねてみる価値があります。

具体的な数字を引き出せれば、それが次回までに伸ばしたい目標になります。

「他行さんとの調整も」の裏側

複数行と取引している経営者の場合、メイン行が単独で判断しづらいケースがあります。

取引比率の見直しや、各行への説明資料のすり合わせなど、メイン行が前に進みやすい状況を、こちら側からつくっておく姿勢が大切です。

「本部の判断になりますので」の裏側

現場担当者は意欲的でも、本部審査部の基準に阻まれているケースがあります。

その場合は、本部審査が見たい材料は何か、担当者経由で確認したうえで、そこに焦点を絞った資料を出していく流れになります。

断り文句を「拒絶」と受け止めて終わらせず、その奥にあるサインを読み解く。

これが、次の交渉を前に進めるうえで欠かせない感覚です。

たちばなはじめの経験から──金融機関への向き合い方

たちばなはじめ自身も、かつて事業の失敗から返済が立ち行かなくなり、金融機関と向き合い直した経験があります。

その局面で出口を開いたのは、金融機関への向き合い方を見直すという発想でした。

感情的に「もう払えない」とだけ伝えるのではなく、自社の状況と先の見通しを資料に落とし、担当者が稟議で説明しやすい形に組み直して持っていく。

このアプローチを重ねるなかで、法的な手続きに頼ることなく再起する道筋を、自分の手で開いていきました。

経営者保証の解除を断られた局面でも、基本の構えは同じです。

担当者の側に立って、どんな資料があれば内部で稟議が回りやすくなるかを考え抜く。

そのうえで、次の交渉までに用意できるものを、こちらから揃え直して持っていく。

「あちらが断った」のではなく、「こちらの材料がまだ届ききっていなかった」と受け止めるところから、次の一手が立ち上がってきます。

リスケに入る前に決めておきたい順番

経営者保証ガイドラインの要件のひとつに「財務基盤の強化」があります。

ここで、実務上の重要な論点が出てきます。

一度リスケジュール(返済条件の変更)に入ると、財務基盤と返済能力は金融機関の評価上、大きく後退したとみなされやすくなります。

結果として、経営者保証を外す道はほぼ閉ざされていきます。

月々の返済が重く感じられても、リスケで延命を選ぶ前に、まずは保証解除を含めた組み直しの選択肢を、一通り検討する。

これが、経営者ご自身とご家族の手札を残すうえで欠かせない順番です。

解除を一度断られたタイミングは、「では次にリスケで」と決めてしまう前に、もう一段の準備を重ねるべき場面でもあります。

断られた直後にやっておきたいこと

最後に、解除を一度断られたタイミングで進めておきたい行動を、ひとまとめにしておきます。

  1. 担当者に「断った具体的な理由と基準」を聞き直し、書面に落とす
  2. その基準と、自社の現在の財務・透明性・経理の区分を照らし合わせる
  3. 足りない部分を、顧問税理士と一緒に書面で補強する
  4. リスケで延命する選択を取る前に、保証解除の再申請を組み立て直す

断られたという事実は、終わりではなく、次の交渉のスタートラインです。

金融機関の担当者は、社内稟議を通すための材料を待っています。

その材料をどう揃え、どのように渡すか。

その組み立て方が、保証解除の成否を分けていきます。

もし「断られたあと、次の一手をどう組み立てればいいか分からない」と感じる局面に立っているなら、ひとりで抱え込まず、まずは一度ご相談ください。


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