先代から引き継いだ借入金がいくら残っていて、どの土地や建物が担保に入っているか。
あなたは、すぐに答えられるでしょうか。
2026年9月25日、帝国データバンクが、業歴100年を超える「老舗企業」の倒産動向をまとめた調査を公表しました。
2026年1月から8月までの老舗倒産は112件で、年間では160件を上回るペースです。
これまで最も多かった2024年の146件を超える見通しだといいます。
報道で挙がる理由は、後継者難と物価高。
が、私たちが老舗の社長から相談を受けていて気になるのは、もう一つ別のところです。
先代の代から積み上がった借入金と、先代が設定した根抵当権を、いまの社長が把握しきれていないまま返し続けているケースが多いのです。
まず、調査の中身から見ていきます。
100年企業の倒産が年160件ペース
業歴100年以上の老舗企業の倒産は、2026年1-8月で112件。年間で160件を上回るペースで推移し、過去最多だった2024年の146件を上回る可能性が高い。業種別では製造業34件、卸売業24件、小売業22件の順で、幅広い業種で後継者難や物価高を背景とした倒産が相次いでいる。負債額別では全体の50%(56件)が負債1億円未満の小規模倒産だった一方、負債10億円以上は4件で、うち3件は簿外債務や売掛金・在庫の水増しなどコンプライアンス違反が倒産の引き金となった。中小・小規模事業者が多くを占める老舗企業の倒産は、今後も高水準で推移する可能性が高い。
— 帝国データバンク「100年経営『老舗企業』の倒産動向調査(2026年1-8月)」(2026年9月25日公表)の要点より
日本は、世界でいちばん老舗企業が多い国だといわれています。
戦争も災害も不況も乗り越えてきた会社が、いま年間160件のペースで消えているのです。
数字を見て目を引くのは、半分が負債1億円未満の小さな倒産だという点です。
大きな老舗の破綻だけでなく、製造業や卸・小売の小規模な老舗も含まれています。
一方で、負債10億円以上の4件のうち3件は、簿外債務や売掛金・在庫の水増しが引き金。
数字を取り繕っていた老舗もあった、ということです。
この調査だけで、倒産したすべての会社に先代からの借入金があったとは言えません。ここからは、借入金を抱えたまま経営を続ける老舗の話です。
100年の歴史があれば、先代の設備投資、代替わりのときの資金、店舗や工場の建て替えと、借りる理由は何度もあります。
借りては返し、返してはまた借りるという繰り返しを何十年も続けるうちに、老舗にとって借入金は「あって当たり前のもの」になっていきます。
そして多くの場合、担保も先代が設定したままになっています。

老舗の借入金はなぜ減らないのか?
老舗と銀行の付き合いは、たいてい社長本人より長く続いています。
先代、先々代からの取引で、担当者が何人代わっても「〇〇さんのところ」として融資が続いてきました。
社長の側も「昔から世話になっている銀行だから」と、条件をあまり確かめずに借りてきたケースが少なくありません。
ここで一つ、知っておいてほしいことがあります。
銀行が融資を続ける理由は、その会社への信用ではなく、回収できるという判断。
付き合いの長さで貸しているわけではないのです。
回収できないと判断すれば、100年の付き合いがあっても、融資はぱたりと止まります。
たちばなはじめには、自分の会社の借入について、先代からの付き合いがあった信用金庫と話し合ったときの、忘れられないやり取りがあります。
当時、たちばなはじめは50歳を目前にしていました。
先代の代から会社を知る信用金庫の顧問は、こう言ったそうです。
「黒字になったら、30年で組み直してあげるよ。そうしたら社長は80歳だね」
返し終わるころには、社長の人生のほうが先に終わってしまいます。
一代では返し終わらない、これが先代から引き継いだ借入金の正体なんです。
いまのように物価高で利益が出にくいと、返済の原資は蓄えか、新しい借入しかありません。
返すために借りる状態に入ると、借入金は減るどころか増えていきます。
100年の付き合いのなかで、それが当たり前になっていないでしょうか。
個別の借入を返しても根抵当権は自動では消えない
金融機関の回収手段の一つが、これからお話しする根抵当権です。先代の代に設定されたものがないか、確かめておきたいところです。
根抵当権とは、一定の継続的な取引から生じる債権を、あらかじめ定めた極度額の範囲で担保する仕組みです。
老舗の本店や工場、社長の自宅には、先代の代に設定された根抵当権が残っていることが珍しくありません。
普通の抵当権と違うのは、個別の借入を返し終えても、根抵当権そのものは自動では消えないという点です。
ただし、極度額は融資を受けられる金額の約束ではありません。新たな借入には、その都度金融機関との合意が必要です。
根抵当権の登記だけを見ても、いま実際にいくら借りているかは分かりません。借入残高と担保の両方を確認する必要があります。
金融機関にとっては、継続的な取引の担保となります。
社長にとっては、借入を返し終えたつもりでも、登記が残っていないか確認すべき状態です。
たちばなはじめは、資産をこう定義しています。
手放すときにお金になるものが、資産。
根抵当権のついた不動産は、手放してもお金は銀行に渡るので、社長の手元にはほとんど残りません。
だから、根抵当権のついた不動産は資産ではなく、負債として考えてくださいと言い切っています。
名義は自分でも、借入が残っているあいだは、担保を外して売るには銀行の同意が要るのです。
老舗の社長ほど、この現実を直視できません。
「親父がこしらえた店だから」
「先祖代々の土地だから」
「町内で最後まで残った家だから」
どれも、社長にとっては本当の気持ちです。
ですが、先代が根抵当権を設定した時点で、その土地は銀行の担保になっています。
先祖の土地を守るために、いまを生きる家族につらい思いをさせるのは、順番が逆です。
不動産を残したいならまずお金を残す
では、土地や建物を残すには、どうすればいいのでしょうか。
答えはシンプルで、お金があることです。
お金をかけずに不動産を維持する方法は、存在しません。
買い戻す、いったん手放して借りて住み続ける、親族に協力してもらう。
どの道を選ぶにしても、資金と時間が要ります。
ところが、多くの老舗の社長は逆のことをしています。
土地を守るためにと、手元のお金を削ってまで返済を続けています。
返す力が足りない会社が返済を続ければ、手元のお金は減り続けます。
返済条件を変更するリスケジュールに入っても、軽くなるのは毎月の返済額だけで、お金が減っていく流れは変わりません。
お金が減ってからでは、買い戻すことも、借りて住み続けることもできない。
だからこそ、無理な返済を続けて手元のお金を減らす前に、金融機関との向き合い方を見直す必要があります。
たちばなはじめは「人はヤドカリより賢くない」と言います。
ヤドカリは危ないと判断したら、すぐに貝殻を捨てて次の貝殻を探します。
身軽になることで、身を守る。
不動産への執着を手放せた社長ほど、結果として、お金も住む場所も残っています。

先代の借入金と根抵当権をいま確かめる
やることは、難しくありません。
次の3つです。
- 借入金の一覧を作る。金融機関ごとの残高、毎月の返済額、信用保証協会の保証や社長個人の連帯保証の有無、そして「いつ、何のために借りたか」を書き出す。先代の代の借入が残っていないかも、このとき分かります
- 登記簿で担保を確かめる。本店、工場、店舗、社長の自宅の登記事項証明書を法務局で取り、根抵当権の有無、極度額、どの銀行のものかを見る。先代の代に設定されたままのものが出てくることもあります
- 返済と手元のお金を突き合わせる。毎月の返済額と、いま手元に残っているお金で、あと何か月返せるかを計算する。返すために借りている状態なら、金融機関との向き合い方を見直す時期に来ています
書き出してみると、「こんなに借りていたのか」「この土地にも根抵当がついていたのか」と驚く社長が少なくありません。
知らないまま返し続けるのと、知ったうえで向き合い方を決めるのとでは、残るお金がまるで違います。
老舗の強みを残すのもお金があってこそ
老舗であることは、間違いなく強みです。
長年の信用も、技術も、お客様も、一朝一夕には手に入りません。
が、先代から引き継いだ借入金と根抵当権を確かめないまま、数字を見ずに返し続けていては、その強みごと失ってしまいます。
たちばなはじめが、資金繰りに悩む社長に伝え続けている言葉があります。
「家土地を残すな、カネを残せ」
厳しく聞こえるかもしれませんが、お金が残っていれば、家も土地も、あとから残す道が開けます。
お金が尽きてしまえば、どちらも残りません。
老舗の土地や自宅と借入金の関係については、次の記事でもくわしく取り上げています。
先代の借入金と根抵当権が気になったなら、無理な返済で手元のお金を減らす前に、まずは一度ご相談ください。
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