売上が右肩上がりで伸びている。
受注もどんどん増えている。
それなのに、なぜか月末が近づくたびに現金が足りなくなる。
こんな感覚に、心当たりはありませんか。
2026年7月、太陽光発電の施設販売を手がけていた会社が特別清算に入ったと報じられました。
年商は一時30億円ほどまで伸びていたそうです。
それでも会社は続きませんでした。
報道では、破綻の理由がこう説明されています。
土地の仕入れから設置、販売まで手がけ、2022年6月期には年商約30億円を計上していた。ところが売上の急拡大に社内の管理体制と資金繰りが追いつかず、借入の増加とともに財務が悪化。持株会社を設けて立て直しを図ったものの回復せず、負債総額は約11億6600万円にのぼった。
— 2026年7月、太陽光発電施設販売会社の特別清算開始命令に関する報道より
「売上の急拡大に資金繰りが追いつかず」。
ここが、今日いちばんお伝えしたいところなんです。
多くの社長さんは、売上が伸びていれば会社は安全だと思っています。
でも、実際は逆のことが起こります。
売上が伸びれば伸びるほど資金繰りが苦しくなる会社は、決して珍しくありません。
これは「黒字倒産」と呼ばれる現象と、根っこがつながっています。
帳簿の上では利益が出ているのに、手元の現金が尽きて会社が回らなくなる。
そういう倒れ方です。
今日は、この太陽光販売会社の破綻を入り口に、増収なのに現金が消えていく構造と、その対処法についてお話しします。
なぜ売上が伸びるほど資金繰りは悪化するのか?
まず、この一見おかしな話のからくりから見ていきましょう。
ここで知っておいてほしいのが、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)という考え方です。
むずかしそうな言葉ですが、中身はシンプルです。
仕入れの代金を払ってから、商品が売れて、その代金が実際に入金されるまでの時間のこと。
この時間が短いほど、手元に現金が残りやすくなります。
たとえば、80で仕入れて100で売る商売を考えてみてください。
理想の形は、入金が早くて支払いが遅いパターンです。
100の入金が先に入ってくれば、そこから80を払っても20が手元に残ります。
運転資金はほとんどいりません。
ところが現実の多くは、その逆です。
先に80を払って、100の入金は数か月あと。
この場合、入金までのあいだ、80の立て替えをどこかで用意しておかなければなりません。
この立て替え分が、いわゆる運転資金です。
ここまで読んで、いやな予感がした社長さんもいるかもしれません。
まさに、そこです。
この「先に払って、あとで回収する」構造のまま売上を伸ばすと、立て替える金額もどんどん膨らんでいきます。
受注が2倍になれば、先に払う仕入れも2倍。
3倍になれば、立て替えも3倍です。
売上が伸びるほど、必要な運転資金が雪だるま式に増えていく。
この差を埋めるために借入を重ね、利息の負担が利益を削り、やがて現金が底をつく。
これが、増収なのに倒れる会社の典型的なパターンです。
土地を仕入れて、設置して、それから販売する。
今回の太陽光販売会社は、まさに先にお金が出ていって、回収は後になる商売でした。
売上が急拡大するほど、立て替えの負担がずっしりと重くのしかかっていったはずです。
「勘定合って銭足らず」が黒字倒産の正体
昔から「勘定合って銭足らず」という言葉があります。
計算上のつじつまは合っているのに、肝心の現金が足りない、という意味です。
決算は黒字。
営業利益もちゃんと出ている。
それなのに現金がない。
こういう相談は、私たちのもとにも本当によく持ち込まれます。
なぜ、利益が出ているのに現金がないのか。
理由のひとつが、借入の元金の返済。
利益の計算に含まれるのは、借入の利息だけです。
元金の返済は経費になりません。
つまり、帳簿の上では黒字でも、その利益をまるごと元金の返済に持っていかれてしまえば、手元に現金は残りません。
「収支は合っているんです。利益も出ているんです。ただ、負債の返済で全部持っていかれてしまって」。
こう話す社長さんに、私たちは何度も出会ってきました。
数字を見ているようで、実は見ている数字が売上と利益だけになっている。
ここに落とし穴があります。
売上と利益さえ追っていれば安心だ。
その思い込みが、月末に突然くつがえされる。
ある日ふいに「あれ、現金が足りない」と気づき、そこから金策に走り回るわけです。
慌てて銀行に駆け込んでも、間に合わないことがあります。
そうやって、黒字のまま資金が尽きていく。
これが、黒字倒産の正体なんです。
数字を追いかけるのは社長にしかできない仕事
では、どうすればこの落とし穴を避けられるのか。
答えはシンプルで、社長自身が数字を、とくに現金の流れを追いかける。
まずは、そこから始めましょう。
会社には営業を任せられる人も、製造を任せられる人もいます。
でも、資金繰りだけは他人任せにできません。
「社長、今月は資金が足りなかったので、私のほうで用意しておきました」。
こんな報告をしてくれる従業員は、まずいません。
資金繰りは、最後は必ず社長本人に跳ね返ってきます。
「昔から数字が苦手でね」。
そうおっしゃる社長さんは少なくありません。
ですが、会計にあるのは足し算と引き算だけです。
掛け算も割り算もいりません。
入ってきたお金と出ていったお金を、足したり引いたりして、いま手元にいくら残っているかを掴む。
まずはそこからで十分です。
じつは、たちばなはじめ自身も、かつて同じところでつまずいた一人。
もともと会計は経理まかせで、自分で細かく数字を追ってはいませんでした。
売上と利益さえ見えていれば事業は回る。
そう思い込んでいたんです。
ところが、自社の資金繰りが少しずつ苦しくなってきたことをきっかけに、あわてて自分で会計を学び始め、数字を直接把握するようになりました。
手書きで伝票を起こし、現金出納帳をつけ、銀行残高を毎日つき合わせる。
地味な作業を続けるうちに、ある日、会社の問題点が急にくっきりと見えてきたといいます。
ですが、その気づきも遅く、努力は実らず、結果的には多額の負債を抱えて事業は破綻してしまいました。
この経験から、たちばなはじめが繰り返し説いているのが、「事業の根幹は事業ではなく会計にあり」という教えです。
自分が数字をおろそかにしてしまったことが、そもそも会社を窮地に追い込んだ入口だった。
その痛みが、この言葉の根っこにある。
だからこそ、社長さんには同じ轍を踏んでほしくないんです。
利益は、結果としてあとから出てくる数字にすぎません。
現金は、いま手元にあるかどうかを示す、動かしようのない事実です。
経営判断のよりどころになるのは、いつだって後者のほうです。
増収のときこそ現金の流れから目を離さない
売上が伸びているときは、気分がいいものです。
だからこそ、足元の現金がおろそかになりがちです。
ここで、増収期に確かめておきたいことを整理しておきましょう。
- 受注が増えたぶん、先に出ていく仕入れや外注費がいくら増えるのか
- その支払いから入金までの期間、いくらの立て替えが必要になるのか
- 立て替えを借入で埋めているなら、利息を引いたあとに手元にいくら残るのか
- 入金を早め、支払いを遅らせる交渉の余地はないのか
とくに大事なのは、入金を少しでも早く、支払いを少しでも遅くする、という発想です。
売上を増やすことばかりに気を取られると、この一番大事な部分が抜け落ちてしまいます。
大きな受注が入ったときほど、「この案件で、いつ、いくらの現金が出て、いつ戻ってくるのか」を先に確かめてください。
もうひとつ、気をつけていただきたいことがあります。
運転資金が足りないからと、安易に借入を重ねてしまうことです。
売上が伸びているときは、銀行もお金を貸してくれます。
でも、その借入がふくらみ続けると、返済の元金がまた現金を圧迫します。
借りることで一時的にしのげても、構造そのものが変わらなければ、同じ苦しさが少し先で、もっと大きくなって戻ってくるだけです。
数字を追いかけることは、決して守りだけの話ではありません。
現金の流れが見えていれば、どこまで受注を伸ばして大丈夫なのか、どの取引が会社の首を締めているのかが分かります。
攻めるためにも、まず現金の流れを掴んでおくことが必要です。
事業の根幹は、事業ではなく会計にある
売上が伸びているのに資金繰りが苦しい。
この違和感を、景気のせいや業界のせいにして放っておくと、気づいたときには身動きが取れなくなっています。
今回の太陽光販売会社のように、増収の勢いのなかで、静かに現金が枯れていくことは実際に起こります。
大切なのは、売上や利益という結果の数字だけでなく、いま手元にいくら現金があり、これからどう動くのかを、社長自身の目で追いかけることです。
数字から目をそらしてはいけません。
追いかけるんです。
それが、資金繰りを立て直し、会社を守るための第一歩になります。
もし、増収なのに現金が残らない、負債の返済で利益が消えていく、といった感覚に思い当たることがあれば、ひとりで抱え込まず、まずは一度ご相談くださいね。
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