2026年9月、福岡県のリゾートホテルが事業を停止したと報じられました。破産などの法的整理は確認されていません。
原因として伝えられたのは、ホテルの建物と土地の家賃の未払いです。
その額は、約7490万円にのぼります。
福岡県宗像市でホテルを運営していた会社は、2018年の設立以来、世界遺産に近い立地を生かして観光の需要を取り込んできた。新型コロナの流行で大幅な事業の縮小や人員削減を余儀なくされ、その後も施設の手直しや、2026年3月のホテル2階での食堂の開業など、立て直しに取り組んでいた。しかし家賃の未払いが続き、2026年7月に建物と土地の所有者側が引き渡しを求めて民事執行を申し立てた。9月24日に事業を停止し、翌25日に強制執行された。東京商工リサーチ福岡支社によると、未払いの家賃は約7490万円にのぼる。
家賃は、毎月決まった額が出ていくお金です。
客足が戻らない月も、同じ額を払わなければなりません。
それなのに、資金繰りが苦しくなると、社長がつい後回しにしてしまう支払いでもあります。
「大家さんには、少し待ってもらえばいい」
そう考えているうちに、未払いの家賃はどんどん膨らんでいきます。
そして大家さんの我慢が限界を超えたとき、会社は商売をする場所そのものを失ってしまうのです。
では、家賃の支払いが苦しくなってきたとき、後回しにすべきなのは本当に家賃なのでしょうか。
家賃の未払いで商売の場所を失ったホテル
報道によると、このホテルはコロナ禍で事業の縮小や人員の削減を余儀なくされ、その後も落ち込んだ観光の需要を取り戻せないままでした。
立て直しに取り組んでいる最中も、家賃の未払いは止まりませんでした。
7月に建物と土地の所有者側が引き渡しを求め、9月には事業の停止と強制執行に至りました。
家賃が積み上がれば、商売の場所はこうして一度に失われてしまいます。
なお、借入の状況など、家賃以外の支払いがどうなっていたかは報じられていません。

ホテルや旅館は毎月出ていくお金が重い商売
ホテルや旅館は、お客が来ても来なくても出ていくお金が大きい商売です。
家賃や建物の維持費、人件費、光熱費。
そのうえ、5年から10年ごとに設備を新しくするお金も必要になります。
帝国データバンクの調査にも、宿泊業の厳しさがはっきりと表れています。
帝国データバンクによると、2025年の宿泊業の倒産は89件。前年の78件から11件(14.1%)増えました。休廃業・解散の178件を合わせると、市場から退出した事業者は267件です。
倒産と休廃業・解散のうち、三大都市圏以外で起きた割合は75.3%でした。
— 帝国データバンク「『宿泊業』の倒産・休廃業解散動向(2025年)」より要点を整理
同じ調査では、ゼロゼロ融資の返済ができないケースや、人手不足、食材や光熱費の値上がりで利益が出せず、事業をあきらめる例が多いとも伝えています。
インバウンドでにぎわう都市部の陰で、地方の宿ほど客足が戻りきっていないのが実情です。
それでも、家賃や人件費、光熱費の支払いは毎月やってきます。
売上は月によって大きく変わるのに、出ていくお金はほぼ同じ額。
たちばなはじめもメルマガの中で、稼いでも稼いでも固定のコストに利益を持っていかれてしまう商売の苦しさを取り上げています。
これはホテルや旅館に限らず、店舗や事務所、工場を借りて商売をしている会社なら、どこでも起こりうることです。
なぜ家賃が後回しになってしまうのか?
資金繰りが苦しくなったとき、社長がとる行動には、よく似た流れがあります。
自分の給料を削り、従業員にしわ寄せがいき、取引先には「少し待ってほしい」とお願いするようになる。
それでも、金融機関への返済だけは最後まで続けてしまうのです。
「銀行に返せなくなったら終わりだ」と思い込んでいるからです。
その陰で後回しにされやすいのが、家賃。
長い付き合いの大家さんほど、事情を話せば少しは待ってくれることもあるでしょう。
だからこそ、つい「今月は銀行を先に」となってしまうのです。
ですが、待ってもらった家賃は消えません。
翌月には2か月分、その次は3か月分と、積み上がっていくだけです。
そして、大家さんの我慢にも限りがあります。
払えなかった家賃がまとまった額になったとき、失うのは建物や店舗、つまり商売の場所そのもの。
場所を失えば、その日から売上は入ってこなくなります。
借入の返済を続けるために、商売の土台を手放すことになってしまうのです。
家賃を削ってまで借入を返し続けない
たちばなはじめは、はっきりとこう伝えています。
従業員の給料を削ってまで、あるいは仕入れ先や協力企業への支払いを遅らせてまで、優先して返すべき借入は存在しない、と。
家賃も同じです。
支払いの順番で考えれば、家賃や光熱費は、給料や仕入れと並んで借入の返済より先に来るものです。
たちばなはじめのお金の優先順位でも、家族、従業員、お客、協力企業を守るのが先で、銀行への返済は一番最後。
家賃を払って商売の場所を守ることは、そこで働く従業員と、通ってくれるお客を守ることでもあります。
「銀行への返済を後回しにしたら、もう融資を受けられなくなる」と心配になるかもしれません。
ですが、場所を失って売上が止まれば、どのみち返済は続けられなくなります。
返済が重くて家賃に手が回らないなら、後回しにすべきは家賃ではありません。
考え直すべきは、銀行への返済の続け方のほうです。
金融機関との交渉方法を見直して、無理のない返済の形を探りましょう。
無理な返済を続けて手元のお金を減らすほど、選べる道は少なくなっていきます。

家賃が払えない状態が続くなら規模と場所を考え直す
一方で、返済の形を変えても家賃が払えない状態が続くなら、いまの場所や規模で商売を続けること自体に無理が来ている合図です。
ここで気をつけたいのが、商売をたたむにも、場所を移すにもお金がかかるということ。
建物や店舗を借りている場合、出ていくときに設備を取り除き、借りたときの状態に戻すよう契約で決められていることも少なくありません。
家賃の未払いが積み上がり、手元のお金も尽きてからでは、その費用すら用意できなくなってしまいます。
そうなる前に確かめておきたいことは、次の3つです。
- 家賃・人件費・光熱費など毎月必ず出ていくお金が売上に占める割合は、数年前と比べてどうか
- この1年で、家賃の支払いが遅れた月が何回あったか
- いまの手元のお金で、借入の返済を続けながら家賃を何か月払えるか
1つ目の割合が以前より高くなっているなら、売上に対して場所や規模が大きすぎる可能性があります。
2つ目で1回でも遅れがあれば、資金繰りを早めに見直すサインです。
そして3つ目の答えが数か月しかないなら、縮小や移転、撤退も含めて、お金が残っているうちに決めるタイミングです。
「来月になれば客足が戻るかもしれない」と先送りしているいまこそ、いちばん動きやすい時期なのです。
商売の場所を失う前に手を打つ
家賃の滞納は、目立たないまま膨らんでいきます。
気づいたときには、商売の場所そのものを失ってしまう。
そうならないために、家賃を後回しにしてまで無理な返済を続けているなら、金融機関に相談して返済計画を見直しましょう。
とはいえ、すでに大家さんに何か月も待ってもらっている方もいるかもしれません。
その状態からでも、移転や縮小の段取りを考えながら、倒産や破産をせずに解決できる道を最後まで探ることはできます。
赤字の事業からの撤退や、苦しいときの支払いの順番については、次の記事でもくわしく取り上げています。
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