帝国データバンクが発表した2025年の集計で、「人手不足倒産」が年間427件と、初めて400件を超えました。
前年比は24.9%増。
3年連続で過去最多を更新する水準です。
倒産企業のうち従業員10人未満の小規模企業が329件と、全体の77.0%を占めています。
業種別では建設業が113件と初めて100件を超え、物流業は52件で過去最多。
老人福祉、派遣、美容、警備など、人の手が要となる業界でも軒並み増加傾向にあります。
2024年4月から始まった時間外労働の上限規制、止まらない採用難、そして大企業との賃金格差。
中小企業の経営者が日々戦っている重圧が、この427件という数字に映し出されています。
この記事では、人手不足倒産が過去最多に達した構造を整理しつつ、小規模企業の経営者が今のうちに整えておきたい打ち手と事業再生の選択肢を、私たちの経験をもとにお伝えします。
人手不足倒産が初の年間400件超に達した3つの構造
427件という数字の中身を読み解くと、業種を越えて重なっている3つの構造が見えてきます。
2024年4月の時間外労働規制で業務量と人員のバランスが崩れた
建設業・物流業を中心に、これまで時間外労働の長時間勤務でなんとか回してきた業務体制が、2024年4月の上限規制でフタをされました。
仕事量は変わらないのに、一人あたりが投入できる時間が減る。
結果として、足りない労働力を新規採用で補えなければ、受注を絞るか営業時間を短縮するかの選択を迫られます。
建設業113件・物流業52件という業種別の数字には、この影響が強く出ています。
大企業の賃上げ競争に中小が追随できない構造
2025年春闘での大企業の賃上げ率は5.52%。
中小企業も賃上げに動いてはいるものの、固定費を上げてでも採用を続けられる体力には、企業規模で大きな差があります。
同じ職種で2割以上の賃金差が出ると、若手も中堅も求人の多い大手に流れていきます。
「採用しても定着しない」「定着しても引き抜かれる」──こうした構造のなかで、現場の人員が薄くなっていきます。
従業員1人の退職が小規模企業に与える衝撃
従業員10人未満の小規模企業が、人手不足倒産全体の77.0%を占めています。
少人数体制では、現場の中核を担う1人の退職が、複数の業務ラインを同時に止めることがあります。
後任の採用に半年・1年と時間を要するうちに、既存メンバーへの過剰負荷が連鎖退職を呼び、気がついたときには事業が回らなくなっている。
これが、最近の人手不足倒産で多く見られるパターンです。
「賃上げ難型」倒産という新しい類型
2025年の倒産で目立つのは、業績そのものは大きく崩れていないのに、賃上げ余力がないために人員が確保できず、事業継続が困難になるケースです。
「業績不振による倒産」とは異なる、「賃上げ難型」とも呼ばれる新しい類型。
原材料費や燃料費の高騰が落ち着いた業種でも、人件費だけは構造的に上昇を続けるため、利益と人件費のはさみ撃ちが起きやすくなっています。
帝国データバンクの調査では、44.5%の企業が2026年の経営懸念材料として「人手不足」を挙げました。
半数近い経営者が、業績よりもまず人を確保できるかどうかを心配している。
この温度感は、ここ数年でもっとも高い水準と言えます。
業種別に見える特有のしんどさ
同じ「人手不足倒産」でも、業種ごとに直面しているしんどさは少しずつ違います。
それぞれの構造を整理しておきます。
建設業──工期遅延が連鎖する
職人と現場監督が揃わないと、工事が前に進みません。
時間外労働の上限規制で、これまで残業でカバーしていた現場が、人員確保なしには成立しなくなりました。
1本の工事が遅れると、次の工事の着工も連鎖的に遅れ、固定費だけが先に出ていきます。
建設業の人手不足倒産が初めて100件を超えた背景には、こうした連鎖の積み重ねがあります。
物流業──ドライバー不足と価格転嫁の壁
物流業の人手不足倒産は52件と過去最多。
2024年問題と呼ばれてきたドライバーの時間外労働上限規制が、現場で本格的に効き始めています。
荷主への運賃改定交渉が進まない事業者ほど、人件費上昇を価格に転嫁できず、利益が削られていく構造です。
サービス業──老人福祉・派遣・美容・警備
地域の生活を支える業種でも、人手不足倒産は着実に増えています。
利用者数や受注は維持できているのに、現場で動ける人員が揃わない。
サービスの質を維持しつつ営業を続けるための人件費が、経営の許容限度を超え始めています。
中小企業の経営者が今のうちに整えたい3つの視点
人手不足は短期で解決する性質の課題ではありません。
だからこそ、平常時のうちに整えておきたい打ち手があります。
経営の足腰を強くする3つの視点を整理します。
視点①──採用と定着を「投資」として資金繰りに織り込む
採用コスト、教育コスト、定着のための賃金引き上げ。
これらは「経費」ではなく「投資」として捉え直すと、資金繰り表のなかでの扱い方が変わります。
半年〜1年先の人件費の見通しを織り込んだ資金繰り表をつくり、必要な投資原資を融資・公的支援を組み合わせて確保する設計が、平常時の経営者ほど大切になります。
視点②──業務の組み立て直しと省人化の一歩
人を増やすことだけを打ち手にすると、採用市場の波に翻弄されます。
現場の業務フローを見直し、機械化・IT化・外注活用で「人を減らさずに業務を増やせる仕組み」を整える。
完全な無人化を目指す必要はなく、一工程だけでも自動化が進めば、1人あたりの粗利が変わってきます。
視点③──リスケに入る前に融資の組み直しを検討する
人件費の上昇で月々の返済が重く感じ始めたとき、頭に浮かびがちな選択肢が「リスケジュール(返済条件の変更)」です。
一時的に楽になる打ち手ではあるものの、経営者保証ガイドラインのもとで代表者保証を外す道は、リスケに入る前と入った後で大きく狭まると言われています。
月々の返済を下げる目的でリスケに踏み切ると、自宅や家族の生活基盤を守る選択肢を自ら手放すことにもなりかねません。
リスケを決める前に、増額融資・借換え・保証付き融資・公的金融機関の制度融資といった組み合わせで、現状を立て直せる余地が残っていないかを一度確認する。
たちばなはじめがもっとも強くお伝えしているメッセージのひとつです。
もうひとつ、見落とされがちな問題があります。
リスケジュールを実行し、一定期間をやり過ごしたあとに通常弁済に戻して、利益を出して存続している事業体は、現場の経験則としてほとんど存在しません。
月々の負担を軽くした結果、経営の構造的な課題に手をつける時間とエネルギーが奪われ、リスケ期間が終わるころには次の延長を申し入れざるを得ない状態になっている。
そんな循環を、たちばなはじめは何度も現場で見てきました。
本来取れるはずだった選択肢が、リスケのなかで少しずつ削られていく構造です。
厳しい話に聞こえるかもしれませんが、これが現実です。
もし信じられないと感じる方がいらっしゃれば、ぜひお付き合いのある銀行員や税理士の方に、こう聞いてみてください。
「リスケから通常弁済に戻して、利益を出して存続している事業体は、どのくらいありますか?」と。
おそらく多くの方が、「ない」もしくは「ほとんどない」と答えるはずです。
とはいえ、すでにリスケに入っている方も、諦める必要はありません。
リスケ後でも取り得る選択肢は確かに残されています。
サービサー対応を見据えた組み立て直し、自宅や個人資産を守る保全設計、再生スキームのゼロからの組み立て…。
リスケ前と比べて選べる手は少なくなるとはいえ、まだ動ける余地は十分にあります。
お一人で抱え込まず、まずは一度ご相談ください。
「事業を畳むしかない」と感じる前に並べておきたい選択肢
経営者の方が「もう人がいないし、事業を畳むしかない」と口にされるとき、まわりの専門家から提示される道筋がほぼ廃業や清算一択だった、というケースは少なくありません。
専門領域の構造上、相談先の得意分野に寄った選択肢が前面に出るのは自然なこと。
だからこそ、相談する側が事前に「他にどんな道があるのか」を俯瞰しておくと、判断の精度が変わってきます。
具体的には、地域の同業者との統合、第三者M&A、ホールディングス型再編、業務の一部譲渡、そして金融機関との交渉方法を見直して資金繰りを立て直し、人材確保の体力を取り戻す道。
どれを選ぶにしても、業績の谷に追い込まれてから決断するよりも、平常時の検討のほうが圧倒的に手札は広く残ります。
たちばなはじめの体験から──「人」と「金」を同時に守るために
たちばなはじめ自身、かつて事業の失敗から、返済が立ち行かなくなった経験があります。
当時、まわりの専門家から提示された道筋はほぼ「破産」一択でした。
それでも本人は、金融機関との交渉方法を見直すアプローチを選び、法的な手続きに頼ることなく事業を再生させました。
その実体験が、現在の支援活動の出発点です。
2026年5月時点で、たちばなはじめのもとに寄せられた相談実績は累積9,300件超、実際の支援に至ったケースは2,000件以上にのぼります。
そのなかには、建設業・物流業・介護事業・サービス業など、人手不足の波に直面してきた経営者の方々が業種を問わず数多く含まれます。
「事業を支える人を守るために、まずは経営の足腰を強くする」という現場の声を、何度も共有してきました。
まとめ──人材難の時代に経営を残す備え
人手不足倒産が年間400件を超えたというニュースは、業界横断の構造変化を映す数字であると同時に、まだ事業を続けている経営者の方々への警報でもあります。
労働規制、賃上げ競争、採用難、家族の生活基盤、個人保証…整理する論点は多いものの、順番に並べていけば動ける手は必ず見えてきます。
大切なのは、人がいなくなってから決断するのではなく、半歩でも早く手札を並べておくこと。
採用と定着の投資設計、業務の組み立て直し、リスケ前の融資の組み直し…1つずつでも積み重ねるほど、未来の選択肢は広がります。
業界ならではの資金繰り構造と、リスケ・経営者保証・資産保全の論点をまとめて手元に置きたい方には、たちばなはじめが書き下ろした無料の電子書籍『会社と社長にお金を残す資金繰り改善の教科書』をご活用いただけます。
中小企業の経営判断にも、活かせる視点が詰まった内容です。
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教科書の内容を概論としてお伝えする場であり、たちばなスキームの全体像を受け取れる時間としてご活用ください。
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