「うちは地域で最後の給油所だから、簡単にはやめられない」
そう思いながら、赤字の月が続いている社長も多いでしょう。
2026年9月12日、帝国データバンクがガソリンスタンド事業者の倒産・廃業の動向を公表しました。
1〜8月の件数は、過去10年で最も多い水準。
数字の裏側にあるのは、薄利の商売で重い固定費を背負い続けるという現実です。
たちばなはじめ自身、かつてガソリンスタンドを営んでいた一人です。
その立場から、赤字を我慢してはいけない理由をお伝えします。
ガソリンスタンドの倒産・廃業が過去10年で最多ペース
まず、公表された数字から確認します。
2026年1-8月に発生したガソリンスタンド(SS)運営事業者の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は19件発生し、前年の累計(17件)を上回った。また、休廃業・解散は125件発生し、前年同期(115件)を上回った。この結果、計144件のSS事業者が倒産や廃業で市場から退出し、前年を約1割上回るペースで推移しており、1-8月としては過去10年で最も多い水準となった。年間でみると5年連続の増加が見込まれるほか、2018年以来8年ぶりに年間200件を超える可能性がある。過去10年の累計では1700社超のガソリンスタンド事業者が市場から退出した計算になる。
— 帝国データバンク「ガソリンスタンド(SS)事業者の倒産・休廃業解散動向」(2026年9月12日公表)より
倒産の19件より、廃業の125件のほうがはるかに多いのです。
つまり、法的な手続きに至る前に、自分の判断で店を閉じている事業者が大半なんですね。
同じ調査では、地方の事業者は4社に1社が赤字でした。
首都圏でも、2割を超える事業者が赤字です。
背景にあるのは、人口減少と高齢化、ハイブリッド車やEVの普及による燃料需要の減少です。
これは一時的な不況ではなく、戻らない流れです。
ここを見誤ると、判断が何年も遅れてしまいます。
ガソリン1リットルの利益は数円しかない
ガソリンスタンドの商売は、売上は大きくても利益は薄いのが実情です。
ガソリン1リットルを売って手元に残る利益は、数円程度です。
だから、車検や洗車、板金整備、レンタカーといった「油外収益」で稼がなければ成り立ちません。
ところが、地方では商圏の人口が減り、油外のサービス需要も限られてきます。
一方で、設備の維持費や人件費といった固定費は、売上が減っても減らない。
たちばなはじめは、かつて父が興したガソリンスタンドと工業用燃料の卸を継いで営んでいました。
月末になると、従業員から「社長、今月は売上3,000万円を超えました」と報告が上がってきます。
ところが翌月の初めには、2,870万円ほどの仕入れの請求書が届くんです。
手元に残るのは、ほんのわずか。
燃料の商売は、日々仕入れに泣かされ、仕入れに脅かされる商売でした。
売上の大きさに安心してはダメ。
見るべきは、仕入れと固定費を払ったあとに、現金がいくら残るかです。
「地域唯一だから」で赤字を続けてしまう
調査の中に、とくに重い指摘があります。
採算が厳しいにもかかわらず、「地域唯一」の給油所ゆえに営業を続けるケースがある、という一文です。
この気持ちは、痛いほどわかります。
「うちが閉めたら、近所のお年寄りは給油に30分も車を走らせることになる」
「父の代からお世話になってきた常連さんを裏切れない」
そう考えて、赤字でも踏ん張っている社長は多いでしょう。
私たちのもとへ寄せられる相談でも、「父の死後は使命感で事業をやってきたが、生業としてはもう成り立たない」という声は珍しくありません。
使命感や義務感だけで頑張り続けると、視野がどんどん狭くなっていくんですね。
ですが、赤字はそのままでは終わりません。
赤字の月が続けば、手元の現金がじわじわと減っていきます。
減った分を借入で埋めれば、翌月から返済が上乗せされます。
設備の更新が重なれば、さらに借入が増える。
こうして、頑張れば頑張るほど負債だけが膨らんでいく状態になってしまうのです。
たちばなはじめが繰り返し伝えているのは、資金繰りの余裕がないときに、慌てて増販に走ったりコストを削りに走ったりしてはいけない、ということです。
増販は先に仕入れや経費が出ていき、無理なコスト削減は油外の売上そのものを削ってしまうからです。
先に現金の残りを確かめ、そのうえで手を打つ。
この順番を間違えてはいけません。
地域のために続けるのなら、なおさら会社の現金を先に守らなければなりません。
現金が尽きて突然閉店したとき、一番迷惑をかけるのは、その地域です。
頑張りが足りないのではなく需要が戻らない
たちばなはじめが燃料店を継いだ1990年代、燃料油の需要は右肩上がりでした。
「国内の石油の需要が減る」とは、常識では考えられなかった時代です。
それでも、ハイブリッド車の広がりや住宅のオール電化は、目の前で進んでいました。
石油小売の環境がこの先良くなることはない、と結論を出したのが2010年、38歳のときです。
その後、たちばなはじめの店舗は、県内の大手の会社が運営者交代という形で引き継ぎました。
ですが、5年もたずに閉店。
ガソリンスタンドは解体され、いまは宅地として分譲されています。
資本のある大手でも続かなかった。
あれから約30年、ガソリンスタンドの数はピーク時から半減しました。
赤字が続いているのは、あなたの頑張りが足りないからではありません。
燃料需要の減少という、個人の努力では動かせない流れなんです。
だからこそ、「もっと頑張れば黒字になる」という期待だけで判断を先送りしてはいけません。
先送りした分だけ、手元に残るお金が減っていくからです。
続けるにしても畳むにしても先に数字を確かめる
では、何から手をつければいいのか。
やることは次の3つです。
- 月の赤字額を出し、手元の現金があと何か月持つかを計算する
- 固定費の内訳を書き出し、燃料の粗利と油外の粗利でどこまでまかなえているかを確かめる
- 設備の更新や借入の返済が、この先いつ、いくら必要になるかを並べる
感覚ではなく、数字で会社の状態をつかむことです。
これだけで、続けるか畳むかの判断は驚くほど早くなります。
そのうえで、続けるのなら、限られた商圏の中でも油外で固定費を上回る粗利を作れる見込みがあるか。
畳むのなら、いつ、どの順番で閉じ、残る借入をどう整理するかです。
どちらを選ぶにしても、現金があるうちに決めるのが鉄則です。
資金繰りは、我慢してはいけません。
症状が軽いうちに手を打てば、早く改善しますし、痛手も小さい。
我慢し続けている自分に酔わず、数字を見ることです。
逃げ道を確保しておくことこそが、経営の出口戦略です。
赤字の給油所を守るのは根性ではなく数字
ガソリンスタンドの倒産・廃業は、5年連続で増える見込みです。
年間で200件を超える可能性もあります。
この流れの中で、赤字を我慢して耐えるだけでは、地域も会社も守れません。
地域のためを思うなら、まず会社の現金を守ってください。
現金さえ残っていれば、続ける道も、畳んだあとの家族の生活も守れます。
とはいえ、すでに返済が重く、「借入を残したまま廃業するしかない」と考え始めている社長もいらっしゃるでしょう。
そんな状態からでも、倒産や破産をせずに解決できる可能性を最後まで探る。
それが、私たちの仕事です。
ガソリンスタンドの経営については、次の記事でもくわしく取り上げています。
- 撤退を決めるときの考え方:ガソリンスタンドの廃業と土地・借入金の悩み…倒産を避けてお金を残す撤退の決め方
- 入出金と返済の確かめ方:ガソリンスタンド10年で1700社超退出…社長は資金繰りをどう変える?
数字の確かめ方と支払いの順番の基本は、たちばなはじめが書き下ろした無料の電子書籍『会社と社長にお金を残す資金繰り改善の教科書』にまとめています(公式LINEを友だち追加するだけで届きます)。
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