2026年11月1日、東京商工リサーチが、2026年度上半期(4-9月)の「デザイン業」の倒産(負債1千万円以上)が41件と、過去最多になったと公表しました。
前年同期の22件から1.9倍に増え、上半期として40件を超えたのは1989年以降で初めてです。
背景の一つとして挙げられているのが、生成AIなどの普及で、お客の側がデザインの一部を自社でまかなう「内製化」が進んでいることです。
「なじみのお客からの依頼が、目に見えて減ってきた」
「AIで作れるなら、うちに頼む理由がなくなるのではないか」
「見積もりを下げれば、まだ頼んでもらえるだろうか」
そんな不安を抱えながらデザイン事務所を回している社長も、少なくないでしょう。
仕事が減り始めたとき、お金の面で何から手をつければいいのか。
まずは、調査で分かったことから確かめておきます。
デザイン業の倒産が上半期で過去最多の41件
東京商工リサーチの調査の要点は、次のとおりです。
2026年度上半期(4-9月)の「デザイン業」の倒産(負債1千万円以上)は41件で、前年同期の22件から1.9倍(86.3%増)に増えた。1989年以降、上半期で40件を超えたのは初めて。
負債1千万円以上5千万円未満が34件と8割を超え、従業員数も5人未満が39件。大半を小・零細規模が占める。
負債額の上位7社のうち5社は、住宅内装や家具などのインテリアデザインを主に手がける企業だった。同じ期間のハウスメーカーの倒産は115件(前年同期比88.5%増)と急増している。
生成AIやノーコードなどの普及で、これまで外注していたデザインの一部を内製化する企業も増えてきた。顧客の内製化で受注不振に陥り、倒産に追い込まれたデザイン会社もある。
— 東京商工リサーチ「TSRデータインサイト」(2026年11月1日)より要点を整理
目を引くのは、倒産した会社のほとんどが、従業員5人未満の小さな会社だという点です。
負債が1億円以上だったのは、41件のうち1件だけです。
以前は、雑誌などの紙の仕事が中心の会社が、お客のデジタル化の流れで受注を減らすケースが多かったといいます。
今回はそこに、住宅の仕事を手がけるインテリアデザインの会社の苦戦と、AIによる内製化の流れが重なりました。
東京商工リサーチは、受注の土台そのものが変わってきていることが背景にあるとみています。
お客が自分で作れるようになった仕事は戻りにくい
景気が悪くて仕事が減ったのなら、景気が戻れば、仕事も戻ってくるかもしれません。
ですが、内製化で減った仕事は話が別。
お客の側が、AIやノーコードの道具を使って、自分たちで作れるようになったということだからです。
一度社内で作れるようになった仕事を、もう一度外に頼む理由は、お客の側にはあまりありません。
住宅の仕事が多い事務所なら、内製化に加えて、仕事を出す側の住宅業界そのものが揺れています。
調査は、住宅大手が地方の戸建ての事業から撤退する動きもあると伝えています。
怖いのは、「長い付き合いのお客だから、また頼んでくれるはず」と考えて、売上が多かったころと同じお金の使い方を続けてしまうことです。
依頼が減った理由が、内製化や住宅業界の変化のように、すぐには戻りにくいものなのか、一時的な波なのか。
そこを見極めないまま待っていても、毎月の支払いは待ってくれません。

値下げや先行投資で売上を取り戻そうとしてはいけない
依頼が減ってくると、つい考えてしまうのが、見積もりの値段を下げてでも仕事を取りにいくことです。
気持ちはよく分かります。
ただ、お客が自分で作るようになった分だけ、外に出てくる仕事は少なくなります。
残った仕事を同業者と取り合えば、行き着く先は値下げ競争です。
しかも、デザインの仕事は、人が時間をかけて作るもの。
値段を下げても、1件にかかる手間はほとんど変わりません。
一度下げた値段は、次の依頼でもほかのお客でも、基準になりやすいものです。
件数をこなそうとすれば、残業や外注が増え、出ていくお金も増えていきます。
忙しくなったのに、お金が残らない。
資金繰りに余裕がないときに、売上を取り戻そうとして先にお金をかけるのも同じです。
新しい分野に乗り出すための機材やソフト、広告、人の採用。
こうしたお金は先に出ていき、売上として入ってくるのは、うまくいったとしても後になります。
売上を伸ばす工夫は、平常時なら大切な経営努力です。
手元のお金に余裕がない非常時に同じことをすると、売上が戻る前にお金が尽きてしまいかねません。
平常時と非常時では、やるべきことがまったく違うのです。

仕事が減った事務所が値下げより先にやること
では、依頼が減ってきた小さな事務所は、何から手をつければいいのか。
やることは次の3つです。
- 得意先ごとに、この1〜2年の依頼の件数と金額を、仕事の中身と一緒に書き出す
- 戻る見込みの薄い仕事を除いた売上で、毎月の支払いをまかなえるかを出す
- 足りない原因が返済の重さなら、値下げより先に返済を見直す
1つ目は、減った仕事の中身を知るためです。
バナーやチラシ、ロゴなど、どんな仕事だったかも一言添えて書き出してみると、「決まった形の仕事ほど来なくなった」「件数は変わらないのに、1件あたりの金額が下がっている」など、減り方の違いが見えてきます。
お客が自分で作るようになった仕事や、住宅の仕事の落ち込みで減った分は、待っていても戻りにくいものとして、いったん売上の見込みから外しておきましょう。
2つ目は、その残った仕事で事務所が回るかを確かめるためです。
デザイナーの給料、事務所の家賃、ソフトや機材の代金など、仕事が減っても決まって出ていくお金を書き出します。
そのうえで、残った仕事で入ってくるお金から、外注費や印刷代など仕事ごとにかかるお金を差し引き、その残りと比べます。
このとき大切なのが、借入の返済を別の行に分けておくこと。
返済を含めたまま比べると、本業では回っているのに、返済が重いだけの事務所まで「もう続けられない」と見えてしまうからです。
3つ目は、足りない分の埋め方を間違えないためです。
本業では回っているのに返済まで手が回らないなら、問題は売上ではなく返済の重さにあります。
そこで値下げをして件数を増やしても、さきほどお伝えしたとおり、お金は残りません。
新しく借りて埋めれば、返済がさらに増えるだけ。
見直すべきは、銀行への返済のほうです。
返済に追われて、値下げで件数を追いかけるのは順番が逆。
たちばなはじめが説くお金の優先順位は、家族、従業員、お客、協力企業が先。
銀行への返済は一番最後です。
無理な返済を続けて手元のお金を減らしてしまう前に、金融機関との交渉方法を見直しておくことが大切です。
一方、返済を除いても毎月の支払いがまかなえないなら、事務所の大きさそのものが、今の仕事の量に合っていないということです。
その場合は、お金が残っているうちに、事務所の形をどう変えるかを考える段階です。
家賃やソフト・機材の代金など、決まって出ていくお金を、残った仕事の量に合わせて小さくできるか。
ここでも、足りない分を値下げや新しい借入で埋めないことが前提になります。
AIに気持ちが折れたまま事務所のこれからを決めない
調査は、生成AIなどの台頭で経営の意欲が下がり、事業を続けるのをあきらめたケースもあるようだと伝えています。
長年、自分の腕で仕事をしてきたデザイナーにとって、AIが短い時間で何案も出してくる様子は、こたえるものがあるでしょう。
ただ、気持ちが折れたまま決めてしまうと、お金の面で損をする選び方になりがちです。
あわててたたんで残ったお金を返済に回し切ったり、意地で続けて足りない分を社長の貯金で埋め続けたりすれば、手元のお金は先に減っていきます。
「もう続けられない」と思い込むのも、「うちはまだ大丈夫」と思い込むのも、たちばなはじめの言葉で言えば「主観」による判断です。
事務所の今の姿は、数字という「客観」で見て初めて分かるもの。
得意先ごとの依頼の推移を書き出してみると、AIに置き換わった仕事と、今も自分の腕を頼ってくれている仕事が、分かれて見えてきます。
続けるか、形を変えるか、たたむかを決めるのは、その2つを分けて見てからです。
たたむと決めた場合でも、法的な手続きに頼らずに、手元にお金を残して事務所を閉じる道もあります。
AIで売上が減った会社の資金繰りや、AIに置き換えられにくい事業の考え方については、次の記事でも取り上げています。
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