中小企業庁が2026年5月22日、「事業承継・M&A補助金」第15次公募の要領を公表しました。
事業承継を後押しする枠、専門家への依頼費用を支える枠、廃業や再チャレンジを支える枠。
承継の局面に応じた複数の枠が用意される制度です。
受付開始のニュースを見て、「うちも申請を出してみるべきか」と考えた社長も多いはずです。
ただ、補助金は、通れば事業承継が前に進む、という単純な話ではありません。
むしろ申請のプロセスは、自社の見え方・後継者の有無・個人保証の現状といった、先送りにしてきた論点を一気に表面化させる入口になります。
では、この第15次公募を、どう受け止めればいいのか。
いま考え始めても遅くはない
事業承継・M&A補助金は、中小企業の世代交代と第三者承継を後押しするための制度です。
専門家への依頼費用、設備投資、廃業時のコストなどに充てられる枠が用意されてきました。
その第15次が出てきたこと自体が、「承継が間に合っていない中小企業がまだ多い」という国の認識の表れ。
経営者の高齢化と後継者不在は、建設業・製造業・小売・サービス業をはじめ、業種を問わず広がっています。
つまり、いまから申請を検討し始めたとしても、決して遅くはありません。
国が後押ししてくれる期間のうちに、承継準備を進めておくのが得策です。
では、実際に承継準備を進めるうえで押さえておきたいポイントを、3つ紹介します。
自社が引き継げる状態か確認する
第三者へのM&Aで会社を譲るにせよ、親族や従業員に承継するにせよ、まず問われることは同じです。
「この会社は今、誰かに引き継ぐ価値があるか」。
買い手も後継者も、決算書だけを見るわけではありません。
事業の柱、主要取引先との契約、人材構成、許認可の状況まで、丁寧に確認していきます。
補助金の申請書を書く作業は、その「見え方」を自分で可視化する作業でもあります。
ただ、いざ経営計画や承継計画を書き出してみようとすると、なかなかペンが進まないものです。
そんな社長は、珍しくありません。
だからこそ、申請書に取りかかる前に、A4で2〜3枚の自社サマリーを準備してみてください。
事業の柱、過去3〜5期の業績推移とその要因、主要取引先、設備の稼働状況、許認可や独自の取引関係。
これらを誰が読んでも分かる粒度に揃えるだけで、補助金審査でも、買い手との初回面談でも、説得力が大きく変わります。
個人保証と担保を社長自身が把握しているか?
事業承継・M&Aの場面で、大きな問題になるのが経営者保証と担保の処理です。
買い手側は「現経営者の個人保証は引き継がない」というスタンスを取ることが多く、金融機関との保証解除交渉が、承継成立の前提条件になることも少なくありません。
ですが、ここで足元を確認しておきたいことがあります。
自社の借入金に、どの個人保証が紐づいているのか。
根抵当の極度額はいくらで、共同担保にどの不動産が入っているのか。
こう聞かれて、すぐに答えられない社長は意外なほど多いのが実情です。
複数行と取引している会社なら、なおさらこの傾向は顕著に現れます。
事業承継やM&Aにおいては、個人保証や担保がないことが望ましい。
だからこそ、可能な限り事前にこれらを解除しておくことが重要です。
ただ、個人保証や担保は、簡単に解除できるものではありません。
業績が平常時のうちに、これらを外す取り組みを進めておく必要があります。
なぜ平常時でなければならないのか?
それは、業績が悪化してから手を打つのでは、選択肢が狭まってしまうからです。
経営者保証ガイドラインのもとで保証を外すには、財務基盤の健全さが問われます。
リスケジュール(返済条件変更)に入ると、その要件を満たせなくなってしまいます。
承継やM&Aの話が動き出す前、平常時のいまのうちに保証の棚卸しに着手しておく。
それが、後の自由度を残す進め方です。
補助金の専門家活用型を使えば、保証や担保の整理に強い士業・仲介会社への費用の一部も対象になり得ます。
ただし、補助金が実際に下りるまでには時間がかかります。
まずは現状の把握だけでも自社で着手して、相談する相手を絞り込む下地を作っておくと、無駄が少なくなります。
事業承継は一人で進めない
事業承継・M&A補助金は、申請書類の作成から採択後の実績報告まで、考えることもやることも多い制度です。
社長一人で完結させるのは、現実的ではありません。
多くの場合、認定支援機関や仲介会社、士業のサポートを受けながら進めていくことになるでしょう。
このとき意識したいのが、誰に頼むか、ということ。
仲介会社や士業の中には、M&Aを成立させること自体を目的とする立場の人もいます。
廃業や法的な手続きを、最初の選択肢として示すタイプの方もいます。
どちらが正解ということではありません。
「会社を残したいのか」「個人の財産を守りたいのか」「従業員の雇用を続けたいのか」。
社長がどうしたいかによって、選ぶべき伴走者は変わります。
私たちがご相談の場で痛感してきたことがあります。
それは、社長が「会社をどう着地させたいか」を言葉にできていないと、専門家の助言に流されてしまう、ということです。
補助金を入り口に伴走者を探すなら、その相手が自社のゴールに本当に並走してくれるかを見極めることが大切です。
その手間と時間を、どうか惜しまないでください。
補助金の前にまず承継できる環境を整える
事業承継・M&A補助金は、キャッシュアウトを抑えながら承継を前に進められる、貴重な制度です。
ただ、補助金そのものが事業承継を成立させてくれるわけではありません。
会社を残し、後継者や買い手に渡せる形に仕上げる。
それは、社長自身の意思決定と、日々の積み重ねでしか実現できません。
第15次公募のニュースをきっかけに、「うちの会社は今、誰かに引き継げる状態だろうか」と立ち止まり、一度会社を見直す時間を取ってみてほしいのです。
補助金を申請するかどうかの判断は、そのあとでも十分間に合います。
もし「補助金より先に、まず自社の現状を客観的に把握したい」と感じているなら、まずは一度ご相談くださいね。
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