経営者の自社株を家族に引き継ぐ準備──相続税の納税資金で家族を困らせない実務

会社を経営しているあなたが相続を考えるとき、論点になるのは預金や自宅だけではありません。

手元にある財産のうち、いちばん大きいのが「自社株」というケースが多いのです。

これを放っておくと、いざというときに家族へ重い納税負担としてのしかかってきます。

ふだん売り買いされない株式が、相続税の評価額では思いがけない金額になる。

しかも換金しにくいので、納税のためにまとまった現金を、家族が用意することになります。

この記事では、経営者の相続で見落とされがちな自社株と納税資金の論点を、実務目線でお伝えしていきます。

目次

なぜ経営者の相続では「自社株」がいちばん大きな論点になるのか

経営者が亡くなった瞬間、所有していた自社の株式は、配偶者や子どもなど相続人に引き継がれます。

ここで多くの家族が驚くのが、自社株の評価額の大きさです。

市場で売買されていない非上場株は、決算書の純資産や、業種の近い上場会社の株価などをもとに評価額が決まります。

長年の利益剰余金が積み上がっていたり、含み益のある不動産を会社で持っていたりすると、株価は思った以上に大きくなりがちです。

そして、もうひとつやっかいなのが「換金しにくい」という性質です。

上場株のように証券会社で売れるわけではなく、市場での価値はあっても、買い手がいなければ現金にできません。

相続人が「相続税は払いたいけれど、株を売る相手がいない」という状況に置かれることが、経営者の相続では珍しくないのです。

さらに、会社の借入が残っていれば、その金融機関への代表者保証も家族へ波及するおそれがあります。

自社株という大きな資産と、個人保証という大きな負担が、相続の場面で同時に表へ出てくる。

経営者の相続が複雑になりやすいのは、この構造があるからです。

家族を納税資金で困らせないために、いま確認したい3つのこと

経営者の相続準備で、まず手をつけたいのが「納税資金をどう用意するか」です。

相続税は原則として、現金一括での納付になります。

自社株が大きく評価される会社ほど、相続人が用意すべき現金額も増えていきます。

業績や時間に余裕があるうちに、次の3つを順に確認しておきましょう。

1. 自社株の評価額を、いま一度確認しておく

自社の決算書を見るだけでも、おおまかな株価のレンジは見当がつきます。

自分で計算しきれない場合は、顧問の税理士に「いま相続が起きたら、自社株の相続税評価額はどのくらいになりそうですか」と聞いてみるのが入口です。

数字が見えてくると、納税額のスケール感がつかめます。

そこから、対策の優先順位を決めやすくなります。

2. 株価そのものを高くしすぎない工夫を考える

業績が伸びている会社ほど、自社株の評価額もぐんと上がります。

役員退職金の支払いタイミング、設備投資の進め方、配当政策の見直しなど、利益や純資産が積み上がりすぎない形に整える工夫があります。

これは節税のためというより、家族に渡したあとの納税負担を、現実的な範囲に収めるための実務です。

3. 納税の原資を、株式以外で用意するルートをつくっておく

たとえば、経営者本人に生命保険をかけておく方法があります。

退職金規程を整えておく、配偶者や後継者に少しずつ預金を残しておく、といった備え方もあります。

事業承継税制という、自社株にかかる相続税の納税を猶予する制度もあります。

要件は複雑なので、税理士と相談しながら、まずは制度の入口だけでも理解しておくとまったく違ってきます。

ひとつのルートに頼らず、複数の選択肢を組み合わせておく。

そうしておくと、いざというときの家族の選択肢がぐっと広がります。

経営者の家族が抱えやすい、相続現場のリアル

経営者の相続には、一般の家庭の相続にはない特有の心情と慣習が絡みます。

ここを見落とすと、せっかくの数字対策も家族のあいだで空回りしてしまいます。

まず、家族のなかに会社に関わっていない方がいるケースです。

配偶者が経理を見ていた会社もありますが、子どもの世代になると「会社のことはまったく知らない」というケースが多いものです。

突然、相続人として自社株を持つことになっても、その株がいくらの価値で、どんな責任がついてくるのかが見えません。

家族のあいだで温度差が出やすいのが、経営者の相続の難しいところです。

次に、後継者がはっきり決まっていない状態で相続が起きるケース。

これは想像以上に多いのが現実です。

後継者が決まっていれば、株を集中させる設計を考えられます。

ところが未定のまま亡くなると、相続人全員が株主になり、会社の意思決定が止まってしまうことすらあるのです。

残された家族が経営を続けるのか、第三者に譲るのか、会社を畳む判断をするのか──このタイミングで初めて議論が始まると、判断材料も時間も足りません。

そして、代表者保証の問題です。

会社の借入に経営者個人が連帯保証していると、相続のときに、その保証債務も相続人に引き継がれることがあります。

「父親が会社に貸していたお金は資産として相続したいけれど、銀行への保証は引き継ぎたくない」というご相談は、現場でもよく寄せられます。

会社の負債と個人保証が家族へ波及する構造を知っておくだけで、平常時にできる備えはぐっと広がるのです。

たちばなはじめの経験と、経営者の相続準備への向き合い方

たちばなはじめ自身、かつて燃料油の卸・小売を営んでいた時期に、大手取引先の経営破綻で6,500万円の手形が焦げ付いた経験があります。

そこから、金融機関との交渉方法を見直すアプローチで、法的な手続きに頼ることなく再起しました。

これがいまの活動の出発点になっています。

だからこそ、経営者が背負っている借入と保証が、家族にまでどう波及していくのかを、現場でくり返し見てきました。

経営者の相続対策で大切なのは、相続税の節税テクニックだけではありません。

「会社の借入と保証を、健全な状態で家族に渡せるかどうか」という視点です。

代表者保証が外せる可能性がある段階で外しておく。

リスケジュール(返済条件の変更)に入る前に、金融機関との関係を立て直しておく。

自宅や個人資産が事業の影響を受けにくい構造にしておく。

こうした平常時の備えが、いざ相続が起きたときに家族の選択肢を広く保ってくれます。

とはいえ、これらを経営者ひとりで全部組み立てるのは、現実的にはなかなか難しいところです。

たちばなはじめは活動17年目を迎え、これまで多くの中小企業経営者の相談に向き合ってきました。

経営者の相続準備は、税務・法務・金融機関交渉・不動産といった複数の領域がそれぞれ絡むテーマです。

だからこそ、相続税の数字だけを見るのではなく、会社の借入・代表者保証・自宅と事業用資産の名義・後継者の有無まで含めて、ひとつの絵にしてお話ししています。

業績がよいうちに手を打つと、家族に残せる選択肢は広がる

経営者の相続準備は、業績が落ち込んでからでは打てる手が一気に狭くなります。

代表者保証の解除も、自社株の集約も、自宅と事業用資産の名義の見直しも、業績が悪化してから着手しようとすると、金融機関の同意が得られにくくなります。

専門家に依頼する費用も出しづらくなります。

逆に、業績がいま安定している段階なら、株価を抑える設計も、納税原資の積み立ても、保証を外す交渉も、現実的な選択肢として並べられます。

そして、経営者の相続でいちばん家族を救うのは、「お父さんがちゃんと考えてくれていた」という事実かもしれません。

数字や手続きの設計はもちろん大切です。

でも、それと同じくらい、平常時のうちから家族と少しずつ会社の話をしておくこと、後継者や相続人の意向を確認しておくことも、相続準備の大事な土台になります。

経営者の相続は、自社株・納税資金・代表者保証・自宅と個人資産という4つの論点が、立体的に絡んできます。

それぞれを別々の専門家にバラバラに相談するよりも、まず全体像をつないだ絵を描いてから手をつけるほうが、家族に残せる選択肢は広がります。

もし少しでも心当たりがあれば、まずは一度ご相談ください。


この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次