5月から6月にかけては、メインバンクの支店長交代や担当者異動が一斉に起きる時期です。
挨拶状や名刺交換の連絡を受け取った瞬間に、ふっと胸の奥が重くなる経営者の方は少なくありません。
前任者と長い時間をかけて積み上げてきた信頼関係が、たった一回の人事でリセットされたように感じる──その違和感こそ、平常時のうちに見直しておくべきテーマを教えてくれます。
新しい支店長や担当者は、就任直後に取引先一覧と融資残高、直近の決算書をひととおり読み込みます。
そこで「気になる先」とラベリングされた瞬間、貴社の融資環境は静かに変わり始める──。
この記事では、たちばなはじめがこれまで多くの経営者と一緒に組み立ててきた現場感覚をもとに、新しい銀行員と向き合う前に押さえたい3つの視点をお伝えします。
支店長交代の時期、銀行内部で何が起きているのか
銀行員は一般的に3年前後で異動する世界です。
支店長クラスはさらに短く、2年程度で次の支店に異動するケースも珍しくありません。
融資先を担当する渉外担当者も、4月から6月にかけて多くが入れ替わります。
新しい支店長は、就任後の数か月でその支店の融資ポートフォリオを「自分の言葉」で説明できる状態にする必要があります。
本部への報告会、半期決算、そして次年度の融資方針会議で、自分が責任を持つ取引先について語らなければならないからです。
そのため、就任直後の支店長は前任者が引き継いだ評価をそのまま受け入れるのではなく、自分の目で改めて取引先を見直そうとします。
これは経営者にとって不利な変化ではなく、むしろ、こちらの言い分を正しく受け取ってもらえる数少ないタイミングです。
銀行員の立場からすると、引き継いだ担当先のなかで「説明が難しい先」が一番怖いと言われています。
決算書だけでは状況がつかめず、前任者からの引き継ぎメモも断片的で、本部から問い合わせが入ったときに答えに詰まる先です。
経営者が先回りしてまとめておけば、このリスクは大きく減らせます。
視点1:自社の説明資料を「新任者目線」で組み直す
多くの経営者は、前任の担当者と築いた共通言語で会話をしてきています。
「あの件はご存じの通り」「いつもお話している通り」といった前提が、決算書の数字の背景に乗っかっている状態です。
担当者が変わると、その前提が一気に通用しなくなります。
このタイミングで準備しておきたいのが、A4で3枚程度の「自社サマリー資料」です。
創業からの経緯、事業の柱、直近3期の売上・利益と要因、設備投資と借入の関係、現在の取引先構成、足元の受注見込み。
これらを新任の銀行員が初見でも理解できる粒度でまとめておきます。
大事なのは、自社にとって都合の悪い数字を隠さないことです。
前期に減収減益があったなら、その背景と現在の打ち手まで含めて文章にしておきます。
新任の支店長が本部に説明する場面で、「この経営者は不利な数字も自分の言葉で語れる人だ」と受け取られれば、評価の出発点が変わります。
視点2:個人保証・担保の現状を経営者自身が把握しておく
支店長交代のタイミングは、自社の融資契約の中身を経営者本人が再確認する絶好の機会でもあります。
複数行と取引している会社ほど、どの借入にどの個人保証が付いているのか、根抵当の極度額はいくらで、共同担保にどの不動産が組み込まれているのか、即答できない経営者は少なくありません。
新しい担当者から「保証の状況はどうなっていますか」と聞かれて、即座に答えられない経営者は、それだけで本部側の与信判断において「ガバナンスが弱い先」とみなされる可能性があります。
逆に、自社の保証・担保関係を棚卸しした一覧表を差し出せば、それだけで印象は変わります。
このとき必ず押さえておきたいのが、たちばなはじめが繰り返しお伝えしている「リスケジュールに入る前に経営者保証を見直す」という考え方です。
経営者保証ガイドラインの3要件のうち「財務基盤・返済能力」は、リスケジュール(返済条件変更)に入った瞬間に満たさないとみなされる構造があるとされています。
つまり、業績が悪化してから慌てて個人保証の解除に動いても、選択肢は大きく狭まります。
新任の支店長との関係が真っさらな今のうちに、保証の現状確認と将来的な解除に向けた対話を始めておくことが、後々の選択肢を残す動きになります。
視点3:「相談する側」から「相談される側」への転換
新任の支店長と最初に会う場面で、いきなり融資のお願いから入る必要はありません。
むしろ、こちらから業界の話、地域経済の話、直近の取引先の動向などを率直に共有することで、相手のスタンスが変わってきます。
銀行員にとって、現場の生情報を持っている経営者は財産です。
本部のレポートやマクロ統計ではつかめない「街の温度」を伝えられる経営者は、自然と支店長から相談される側に回ります。
こうした関係性は、いざ資金需要が生まれたとき、あるいは取引先の経営不安が見えてきたときに、想像以上に効いてきます。
先回りして相談に来た経営者と、追い詰められてから駆け込む経営者では、銀行内部の稟議の通り方が変わると言われています。
たちばなはじめ自身、かつて燃料油の卸・小売を営んでいた時期、大手取引先の経営破綻で6,500万円規模の手形が焦げ付き、資金繰りに行き詰まった経験があります。
そこから法的な手続きに頼ることなく再起した過程で痛感したのは、金融機関との関係は「困ってから手を打つ」のでは遅すぎるということでした。
支店長交代の不安は「整理のサイン」として受け止める
多くの経営者が、支店長交代の連絡を受けたときに感じる漠然とした不安は、決して気のせいではありません。
それは、自社と銀行との関係を平常時のうちに棚卸し直すべきタイミングだと、経営者の感覚が教えてくれているサインです。
この時期にきちんと準備しておくと、新任の支店長や担当者との関係づくりがスムーズになるだけでなく、もし将来的に資金繰りが厳しい局面を迎えても、選択肢の幅は大きく広がります。
逆に、「とりあえず挨拶を受けておけばいい」と流してしまうと、次に銀行と本気で向き合う必要が出てきたとき、すでに動ける余地が狭まっていることも珍しくありません。
たちばなはじめは活動17年目を迎え、これまで多くの経営者の支援に携わってきました。
私たちのもとには、メインバンクの担当者交代をきっかけに「このままでいいのか」と感じて連絡をくださる経営者の声が、毎月のように届きます。
銀行交渉の組み立てや自社の棚卸しは、経営者ひとりで抱えるには論点が広い領域。
複数の視点を持つ専門家チームと一緒に整理してみる時間が、いざというときの手数を増やします。
新しい支店長との初対面の前に、自社の現状を見直したいと感じている経営者の方は少なくないはずです。
もし少しでも心当たりがあれば、まずは一度ご相談ください。
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