「今年の秋冬物を、どれだけ仕入れるか」
この判断ひとつで、半年後の資金繰りが決まってしまいます。
婦人服やアパレルの店を営む社長なら、その怖さを毎シーズン感じているはずです。
2025年、婦人服店の倒産は5年ぶりの高い水準まで増え、2026年に入っても業界の倒産は止まっていません。
そして倒産した店の多くは、売れ残った在庫を抱えたまま現金が尽きていきました。
では、なぜ在庫が店を追い詰めるのでしょうか。
婦人服店の倒産が5年ぶりの高水準
まず、足元の数字から確認します。
2025年1〜11月の婦人服卸・小売業の倒産は128件で、前年同期比18.5%増と増勢に転じた。前年(2024年)の通年115件をすでに上回り、2020年(159件)以来、5年ぶりに150件台に乗せる可能性が出ている。資本金1,000万円未満が81件(構成比63.2%)、従業員5人未満が95件(同74.2%)と小・零細規模が大半を占め、形態別では破産が114件(同89.0%)と再建を諦めた倒産が大半だった。原因別では「販売不振」が97件(同75.7%)を占める。
— 2025年12月、東京商工リサーチの調査より
倒産した店の7割以上が従業員5人未満です。
家族で切り盛りしてきた駅前のブティックや、地域のセレクトショップが次々と店を閉じている、ということです。
しかも9割近くが破産です。
立て直しを試みる前に力尽きてしまった店がほとんどだと読み取れます。
2026年もアパレルの倒産は止まっていない
では、2026年に入って状況は変わったのでしょうか。
2026年上半期(1〜6月)の全国の繊維業者の倒産は163件で前年同期比5.8%減、負債総額は390億9,000万円だった。業種別では「小売商」が64件(38.7%)で最も多く、「紳士・婦人・子供・被服製造卸」が40件(24.5%)と続く。原因別では「業績ジリ貧」が153件(93.9%)と圧倒的多数を占めた。負債10億円以上の倒産には、婦人服製造小売の㈱PMプロジェクト(負債27億1,100万円)などが含まれる。
— 2026年7月、信用交換所「2026年上半期 倒産統計繊維版」より
件数こそわずかに減りましたが、倒産の4割近くが小売店で、原因の9割以上が「業績ジリ貧」です。
急に何かが起きて潰れたのではなく、じわじわと売上と現金が減り続けた末に力尽きた、という倒産がほとんどなんです。
2026年1月には、1950年創業の婦人服メーカーが負債25億円で破産しました。
ショッピングモールを中心に最大26店舗を展開していた婦人・子供服の販売会社も、業績不振に後継予定者の死去が重なり、事業の継続を断念しています。
売上規模のある会社でも、長く続いた会社でも、例外ではありません。
2026年5月の商業動態統計では、小売業全体の販売額が前年同月比5.3%増だったのに対し、織物・衣服・身の回り品の小売業は0.7%の減少。
ほかの小売が伸びているなかで、衣料品だけが取り残されている状況です。
「販売不振」の中身は売れないことだけではない
倒産の原因として挙げられる「販売不振」。
そのまま読めば「お客さんが来なかった」という話に聞こえます。
ですが、現場で起きていることはもう少し複雑です。
生地や縫製など海外に頼る仕入れは円安で値上がりし、店頭スタッフの人件費も最低賃金の引き上げで上がり続けています。
一方で、値上げをすればお客さんは離れてしまう。
スマホひとつで試着なしの購入もサイズ交換も済んでしまう時代に、わざわざ店頭で買ってもらえる理由はどんどん薄れています。
客数はそれほど落ちていないのに、仕入れと人件費の上昇に価格が追いつかず、粗利と現金が回らなくなってしまいます。
これも統計の上では「販売不振」に分類されます。
つまり「もっと売れば解決する」という単純な話ではないんです。
売れ残り在庫が現金を食いつぶす
アパレルならではの問題が、もう一つあります。
在庫です。
婦人服は季節商品ですから、春夏物・秋冬物の仕入れのたびに、まとまった現金が先に出ていきます。
売れるかどうかわからないうちに、仕入れ代金の支払いだけは先に来ます。
そして売れ残った分は、シーズン末に値引きして処分するしかありません。
ここで何が起きているか、一度考えてみてください。
在庫は、現金が服の形に変わったものです。
定価で売れれば現金は増えて戻ってきますが、半額で処分すれば仕入れ代金すら戻ってきません。
売上は立っているのに、現金は減っている。
この状態がシーズンごとに繰り返されると、帳簿の上では黒字でも、手元の現金はじわじわと減っていきます。
「売上はあるのに、なぜかお金が残らない」
「毎シーズン、仕入れの支払いがきつい」
こう感じているなら、在庫が現金を食いつぶしているサインです。
苦しいときに品揃えを増やしてはならない
資金繰りが苦しくなったとき、真面目な社長ほど「売上を取り戻そう」と考えます。
品揃えを増やす、新しいブランドを入れる、ネット販売を始める、広告を打つ…
ですが、たちばなはじめは、資金繰りが苦しくなってからの売上挽回策をはっきりと否定しています。
売上を伸ばす策には、必ず先にお金が出ていくからです。
とくにアパレルで怖いのは、売上を取り戻そうとして仕入れを増やすことです。
売れれば現金は戻ってきますが、売れなければ在庫がさらに膨らみ、値引き処分でまた現金が減ります。
その仕入れを借入でまかなっていたら、、、
在庫は値引きで消えても、返済だけはそのまま残ってしまいます。
売上を追いかけるほど、現金が減っていきます。
これが、統計で「業績ジリ貧」と呼ばれている状態です。
資金繰りを立て直すためにやるべきこと
では、在庫を抱えて資金繰りが苦しいとき、何から手をつければいいのでしょうか。
やることは次の3つです。
- 在庫を含めた現金の流れを、半年先まで数字で見る
- 仕入れを絞り、売れ残りを現金に戻す
- 支払いの優先順位を見直す
在庫を含めた現金の流れを半年先まで数字で見る
売上と利益だけを見ていては、在庫の問題は見えてきません。
仕入れ代金をいつ払い、その服がいつ現金に戻ってくるのかを月ごとに並べた資金繰り表を作れば、「どの月に現金が足りなくなるか」が数字でわかります。
難しい会計知識は要りません。
たちばなはじめが繰り返し説いているのは、「事業の根幹は事業ではなく会計にあり」という教えです。
とくにアパレルのように在庫で現金の形が変わる商売では、利益の数字より、現金がいつ入っていつ出ていくかを追えているかどうかが店の生死を分けます。
仕入れを絞り売れ残りを現金に戻す
資金繰りが苦しいときに最初にやるべきは、売上を増やすことではなく、出ていく現金を止めることです。
次のシーズンの仕入れは、売れ筋に絞って量を減らしましょう。
すでにある売れ残りは、値引きを惜しまず現金に戻すのが鉄則です。
「安く売ったらもったいない」と感じる気持ちはよくわかります。
ですが、倉庫に眠っている在庫は、1円の支払いにも使えません。
現金に戻して初めて、家賃や給与の支払いに回せるんです。
支払いの優先順位を見直す
それでも現金が足りないとき、どこから先に払えばいいのでしょうか。
たちばなはじめの「お金の優先順位」は、次の5つです。
- 家族
- 従業員
- お客
- 協力企業
- 銀行
家族・従業員・お客様・協力企業を守るのが先で、銀行への返済は一番最後にする。
これがたちばなはじめのコンセプトです。
限られた現金を、ほかの支払いを止めてまで銀行返済に回してしまうと、仕入れ先への支払いが滞り、店は回らなくなります。
返済が苦しいなら、無理して返す前に支払いの順番を見直しましょう。
そうやって手元の現金を確保し、家族と店を守ることが先決です。
現金の流れから目をそらしてはならない
売れ残った在庫を放っておくと、現金はじわじわと減り続け、気づいたときには仕入れの支払いすら回らなくなります。
そうなる前に、在庫を含めた現金の流れを数字で見て、出ていくお金を止め、支払いの順番を見直しておくことが大切です。
早めに手を打つほど、選べる道は断然多い。
とはいえ、すでに在庫と返済に追われ、「もう店を閉めるしかない」と考え始めている方もいらっしゃるかもしれません。
そんな状況でも、まだできることは残されています。
私たちは、どんな状態でも、倒産や破産をせずに解決できる可能性を最後まで探るというスタンスで支援にあたっています。
店を立て直すにしても、整然とたたむにしても、お金や資産をできるだけ残す形を一緒に組み立てる。
これが、私たちが一貫して大切にしてきた姿勢です。
在庫と資金繰りの考え方は、たちばなはじめが書き下ろした無料の電子書籍『会社と社長にお金を残す資金繰り改善の教科書』にもまとめています(公式LINEを友だち追加するだけで届きます)。
会社と社長にお金を残す基本的な考え方を、たちばなはじめが直接お伝えするセミナーも定期的に開催しています。
資金繰りだけでなく、在庫を抱えたまま返済に追われている状況のご相談も受け付けています。
もし少しでも心当たりがあれば、まずは一度ご相談くださいね。
資金繰りの課題を抱える
あなたの選択肢を、

