事業のためにお金を借りるとき、当たり前のように求められるのが「代表者の個人保証」です。
会社の借入であるはずなのに、なぜ個人の財産まで担保にしなければならないのか。
多くの経営者が一度はそう感じたことがあるはずです。
この慣行を見直す枠組みが「経営者保証に関するガイドライン」です。
この記事では、ガイドラインで示されている「3要件」をまとめたうえで、3要件と同じくらい、あるいはそれ以上に重要だと私たちが考えている「ある注意点」までを順を追って解説します。
先に結論をお伝えすると、その注意点は「リスケジュールをする前に踏み出す」ということです。
詳しくは後段で説明します。
経営者保証ガイドラインとは|中小企業の融資慣行を見直す枠組み
経営者保証に関するガイドラインは、2013年に全国銀行協会と日本商工会議所を事務局として策定された、自主的なルールと言われています。
法律ではないため強制力はありませんが、金融機関の指針として位置づけられ、経済産業省や金融庁も「経営者保証に依存しない融資慣行」を強く打ち出しています。
背景にあるのは、日本特有の融資文化です。
欧米では「会社と個人は別人格」という法人格独立の原則が厳格に運用され、経営者個人が会社の借入を全額保証するケースは限定的だと言われています。
一方、日本では中小企業融資の現場で代表者保証が長らく当たり前の慣行として根付き、会社が傾けば経営者個人の自宅・預貯金・生命保険まで巻き込まれる構造が続いてきました。
この慣行は、起業家精神の妨げにもなってきました。
失敗した経営者の再起の困難さ、そして後継者が「親の保証まで引き継ぎたくない」と考えて事業承継を断念するケースが、長年指摘されてきています。
ガイドラインは、こうした「無限責任の連鎖」を断ち切るために整備されたものです。
さらに2023年4月以降は、金融機関が個人保証を求める際に「なぜ保証が必要か」「どの条件が満たされれば外せるか」を経営者に具体的に説明することが求められる運用に変わったと言われており、経営者側からすれば自社の状態を点検する機会として活用できる流れが整いつつあります。
個人保証なし融資のための「3要件」
ガイドラインで示されている、保証を求めない融資の検討対象となる「3要件」は次のとおりです。
要件そのものはシンプルですが、実際に満たすには日々の経理処理と組織運営の積み重ねが求められます。
要件1:法人と経営者の資産・経理が明確に分離されていること
会社のお金と個人のお金が混ざっていない状態です。
具体的には、会社口座から個人支出を引き落とさない、社長への貸付金や仮払金が放置されていない、自宅と事業所の名義や賃貸借契約が片付いている、といった基本的な経理規律です。
金融機関は決算書の役員貸付金・仮払金・立替金などの科目を厳しく見ていると言われています。
要件2:財務基盤が強化されており、返済能力があること
営業キャッシュフローで安定的に借入を返済できるかどうか、という視点です。
利益が出ているだけでなく、現預金残高や自己資本比率、債務償還年数などを総合的に見て、業績悪化が起きても支払能力に余裕があるかが評価されます。
要件3:適時適切な情報開示が行われていること
月次試算表、資金繰り表、事業計画などを金融機関に対して定期的に開示し、業績や見通しを共有しているかどうかです。
年に一度の決算書だけを差し出す関係ではなく、平常時から数字をオープンにし、悪い情報も隠さず共有する姿勢が問われます。
情報開示の質は、金融機関にとって「事業性評価」に踏み込む際の前提条件にもなります。
3要件は同時達成が原則
3要件は「どれかひとつを満たせばよい」というものではなく、3つを総合的に満たしていることが検討の前提だとされています。
1つでも欠けていれば、金融機関側は保証を外す判断に踏み切りにくいのが実情と言えます。
ここまでまとめた3要件と、後述するリスケジュールとの関係について、AIで「経営者保証ガイドライン リスケジュール 影響」をテーマに調べてみると、次のような解説が出てきます。
経営者保証ガイドラインでは、経営者保証を不要とする要件として、①法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること、②財務基盤が強化されており法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得ること、③適時適切な財務情報の開示、の3つが整理されています。
財務基盤の強化要件としては、業績が堅調で十分な利益(キャッシュフロー)を確保し、内部留保も十分で借入金全額の返済が可能と判断できる状態が想定されており、返済条件の変更(リスケジュール)が継続している段階では、この要件を満たすことが実務上難しくなる傾向があると整理されています。
— AI検索で「経営者保証ガイドライン リスケジュール 影響」について調べた際の解説より引用
この内容については、次の章でさらに踏み込んで見ていきます。
3要件と同じくらい重要な「注意点」── リスケジュールに入る前に踏み出す
ここからが、本記事で本当にお伝えしたい論点です。
3要件の説明はあくまで制度の話ですが、現場で何が起きているかという実務の話に踏み込むと、もうひとつ決定的に重要なポイントが見えてきます。
それは、「リスケジュール(返済条件の変更)をしていないこと」が、代表者保証を外せるかどうかの実質的な分水嶺になっているという事実です。
私たちが、経営者保証や個人保証の文脈で最も強く訴求している論点が、まさにここです。
リスケに入った瞬間、要件2は満たせなくなる
3要件のうち、要件2は「財務基盤が強化されており、返済能力があること」でした。
リスケジュールというのは、本来の返済額を減額・据置などの形で見直してもらう手続きです。
実施するということは、金融機関に対して「契約上の返済が苦しい」と表明したのと同じ意味になります。
すると金融機関は、その会社を「返済能力に懸念あり」と評価せざるを得なくなります。
要件2を満たしていない、と判断される可能性が極めて高くなる。
結果として、代表者保証を外す交渉は事実上ほぼ閉ざされてしまうのです。
リスケは「延命策」に見えて、保証解除の道を狭める行為
リスケは、月々の返済負担が軽くなるという目に見えるメリットがあるため、苦しい局面で経営者が選びがちな選択肢です。
顧問の税理士やWEB上の情報でも、「困ったらまずリスケ」と示唆されることがあります。
しかし、その先に何が起きるかを冷静に見たとき、別の景色が見えてきます。
リスケで延命した会社が、その後すべて返済を平常化して事業を立て直したかというと、現実にはそうなっていないケースが多いというのが実情です。
むしろ、リスケに入った瞬間に「自宅を含む個人資産を守る道」が一段階閉じてしまい、その後の選択肢が一気に細っていく、という構造があります。
つまりリスケは、目先の延命策に見えて、「保証解除を含む将来の選択肢」を自ら捨てに行く行為にもなり得るのです。
もうひとつ、見落とされがちな問題があります。
リスケジュールを実行し、一定期間をやり過ごしたあとに通常弁済に戻して、利益を出して存続している事業体は、現場の経験則としてほとんど存在しません。
月々の負担を軽くした結果、経営の構造的な課題に手をつける時間とエネルギーが奪われ、リスケ期間が終わるころには次の延長を申し入れざるを得ない状態になっている。
そんな循環を、たちばなはじめは何度も現場で見てきました。
本来取れるはずだった選択肢が、リスケのなかで少しずつ削られていく構造です。
厳しい話に聞こえるかもしれませんが、これが現実です。
もし信じられないと感じる方がいらっしゃれば、ぜひお付き合いのある銀行員や税理士の方に、こう聞いてみてください。
「リスケから通常弁済に戻して、利益を出して存続している事業体は、どのくらいありますか?」と。
おそらく多くの方が、「ない」もしくは「ほとんどない」と答えるはずです。
とはいえ、すでにリスケに入っている方も、諦める必要はありません。
リスケ後でも取り得る選択肢は確かに残されています。
サービサー対応を見据えた組み立て直し、自宅や個人資産を守る保全設計、再生スキームのゼロからの組み立て…。
リスケ前と比べて選べる手は少なくなるとはいえ、まだ踏み出せる余地は十分にあります。
ひとりで決めずに、まずは一度ご相談ください。
だからこそ、リスケを検討する前に一度相談に来てほしい
私たちが繰り返し発信しているメッセージは、シンプルです。
「リスケジュールを実行する前に、ぜひ一度ご相談ください」ということ。
すでに資金繰りが苦しくなっている段階でも、リスケに入る前であれば、保証解除を視野に入れた取り組みや、不動産と個人資産を守る組み立てなど、検討の余地が残っていることがあります。
一度リスケに入ってしまうと、その後の選択肢は一気に狭くなる構造です。
だからこそ、「契約変更の判子を押す前」が大きな分かれ道になります。
「銀行から提案されたから」「税理士に勧められたから」と、流されて判子を押してしまう前に、立ち止まって他の選択肢が本当にないのかを確認する。
その一手間が、その後の人生の幅を大きく変えることがあります。
経営状態別に見る現実的な選択肢
ここまでを踏まえ、経営状態別に取り得る現実的な打ち手をまとめます。
業績が安定し、3要件を満たしている場合
既存借入の借換えのタイミングで、保証解除を金融機関に申し出る方法があります。
新規融資の際にも、最初から「無保証」での実行を交渉できる余地があります。
スタートアップや新規事業向けには、政府系金融機関を中心に、原則として個人保証を求めない制度融資の活用も選択肢です。
事業承継のタイミングで、保証を引き継ぎたくない場合
先代と後継者の双方から二重に保証を取るのではなく、後継者からのみ徴求する、あるいは双方とも徴求しないといった運用が、ガイドラインの特則として整備されてきています。
承継を機に、先代の個人保証を解除する交渉を行うのが本筋となります。
あわせてお伝えしておきたいのが、私たちは「後継者に負債を引き継がせない事業承継」のサポートも得意としている、ということです。
借入が残ったまま承継を進めると、後継者が同じ資金繰りの問題に直面することになります。
「親が残した借金を返すために自分の人生を費やす」という構図は、決して珍しくない景色です。
私たちのチームでは、承継の前段階で負債処理に決着をつけ、健全な事業の中核だけを引き継いでもらう設計を、これまで多くのケースで支援してきました。
承継のタイミングが視野に入ってきている経営者の方は、できるだけ早い段階で一度ご相談ください。
業績が悪化し始め、リスケを検討している場合
これがまさに、本記事の中心的な分岐点です。
リスケの実行前であれば、まだ取り得る選択肢が複数残されています。
リスケを実行する前に、必ず一度ご相談ください。
すでにリスケ中、または業績が大きく悪化している場合
正直にお伝えすると、保証外しの交渉は実務上極めて難しい局面です。
その段階に入った場合は、保証解除そのものを目指すのではなく、家族と個人資産をどう守るかという別の論点に切り替えて、選択肢を組み立て直すことになります。
それでも、倒産・破産だけが選択肢ではありません。
検討すべき道はまだ残っていることが多いです。
中小企業の現場で起きていること|保証外しが進まない理由と心情
制度として整備されていても、現場では保証外しが思うように進んでいないと言われています。
その背景には、中小企業特有の事情があります。
「言い出しにくい」という空気
中小企業の経営者にとって、メインバンクとの関係は経営の生命線です。
毎月の運転資金、賞与資金、決算資金と融資相談を継続している以上、「保証を外してほしい」と切り出すこと自体に心理的なハードルがあります。
「角が立たないか」「次の融資に影響しないか」という懸念が先に立ち、口に出せないまま年月が過ぎていくケースは珍しくありません。
家族への波及という重さ
連帯保証の本当の重さは、本人だけの問題で終わらないところにあります。
会社が傾けば、自宅は競売の対象になり、家族の生活基盤に直結する構造です。
配偶者に肩代わりが及ぶこともあれば、子世代が事業承継を諦める理由にもなります。
「自分が頑張れば何とかなる」という経営者の責任感が、結果として家族全体に重い荷を背負わせる。
この構造的な苦しさが、連帯保証というテーマの本質だと言えます。
「責任感の証」とされてきた空気と、現実的な進め方
日本の融資慣行では、個人保証は長らく「経営者としての覚悟の表れ」として運用されてきました。
借り手側にも「保証してこそ一人前」という情緒的な空気が根強く、ガイドラインを知っていても「自分から申し入れるのは図々しい」と感じてしまう方が多いのが実情です。
一方、金融機関の担当者にとっても、無保証融資は事業性評価の力が問われる責任の重い仕事です。
保証外しを申し入れる際は、自社が3要件をどう満たしているかを資料で示し、担当者が支店内で稟議を通しやすい材料を整える。
この姿勢が、現実的な交渉の第一歩になります。
倒産・破産という結末を選ぶ前に|選択肢を一通り見渡してから決める
すでにリスケに入っている、あるいは資金繰りが限界に近づいている。
そんな段階に立った経営者の前には、どうしても「破産するしかないのでは」という選択肢だけが浮かび上がりがちです。
家を失う、家族に迷惑をかける、それでも他に方法がないなら仕方がない。
そう考えて相談に動かれる方は本当に多いと感じます。
たちばなはじめ自身、前身の小売業で事業の失敗から、返済できない局面に追い込まれた経験があります。
当時、解散・清算の手続きに進めば破産が前提になりましたが、その手続き費用すら手元にありませんでした。
そこから自力で道を切り開く中で、金融機関との向き合い方を変える手法にたどり着き、法的な手続きに頼ることなく再生することができました。
倒産や破産だけが道ではない、という発想に立ったときに、はじめて選択肢の幅が広がっていきます。
お金に困った人の気持ちは、お金に困った経験のある立場でなければ本当の意味では見えにくい。
これは特定の職業を批判する話ではなく、立場と経験という普遍的な話です。
専門家のサービスは、それぞれが得意とする手続きの中で誠実に解決の道筋を組み立てるものです。
だからこそ、相談先によって出てくる選択肢の幅は自然と変わります。
専門領域の構造上、自然と提示される選択肢の幅が変わるという話です。
相談する側が「自分が今どの扉を叩いているのか」を意識しておくと、提示された選択肢を冷静に受け止めることができます。
平常時の備えが選択肢の幅を決める
連帯保証の問題は、非常時になってから踏み出そうとすると、打てる手が一気に少なくなります。
業績が好調なうちに、根抵当の設定状況、自宅と事業所の名義、事業用資産と個人用資産の切り分けを点検しておく。
3要件の整備も同じで、平常時の経理規律と情報開示の積み重ねが、いざというときの交渉余地を残してくれます。
日々の運営に「会社と個人は別人格」を落とし込むことが、家族と事業を同時に守るための、地味で確実な方法です。
まとめ|リスケに入る前に、選択肢を見渡してから決める
経営者保証ガイドラインは、中小企業の経営者を「無限責任の連鎖」から守る枠組みです。
3要件(法人と個人の分離・財務基盤の強化・適時適切な情報開示)を意識した日々の運営が、保証外しの交渉余地を生み出します。
そしてこの記事の中心となる注意点として、もうひとつ強調しておきたいのが、「リスケジュールに入る前に踏み出す」ことの大切さです。
リスケは目先の負担を軽くする延命策に見えますが、保証解除を含む将来の選択肢を狭める行為にもなり得ます。
リスケの判子を押す前の段階で踏み出せるかどうかが、その後の道筋を大きく左右します。
もし今、資金繰りや個人保証のことで眠れない夜を過ごしているなら、結論を急がずに手元の選択肢を一通り見渡してみてください。
倒産や破産だけが選択肢ではありません。
リスケに入る前の段階であれば、なおさら検討できる道は残っています。
決断してしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。
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