医療・福祉事業の倒産件数が、2025年度に過去最多の478件に達したことが、東京商工リサーチの調査で明らかになりました。
1988年度以降の38年間で、金融危機やリーマン・ショックを超える水準とのことです。
地域医療や介護サービスは、私たちの生活に欠かせない事業です。
その業界全体で経営危機が広がっているという事実は、業界に身を置く経営者の方々にとって、決して人ごとではありません。
本記事では、なぜ医療・福祉事業の倒産がこれほど増えているのかという背景を整理したうえで、業界の経営者がいま検討しておきたい選択肢、そしてそれぞれの選択肢の本当の意味について解説します。
なぜ医療・福祉事業の倒産が増えているのか
医療・福祉業界の経営環境は、ここ数年で急速に厳しさを増しています。
倒産件数が過去最多になっている背景には、いくつかの構造的な要因が重なっています。
① 経営者の高齢化と後継者不在
個人開業の医療機関や小規模介護事業者では、経営者の世代交代が大きな課題です。
後継者が見つからないまま経営を続けるうちに、設備投資の判断が遅れ、競争力を失っていくケースが増えています。
② 人口減少による需要の縮小
都市部では一定の需要が維持されているものの、地方では人口減少に伴って患者・利用者数そのものが減っており、施設の稼働率が低下しています。
地域による需要の偏りが、業界全体としては平均値を押し下げています。
③ 物価高・人件費上昇のコスト圧迫
医薬品・衛生材料・光熱費などのコストが上昇する一方で、介護職員・医療従事者の確保には待遇改善が欠かせません。
コストが上がっているのに、収益を簡単には増やせない状況が続いています。
④ 公定価格による収益キャップ
医療・介護報酬は公定価格であるため、コストが上がっても自由に価格に転嫁できません。
一般の業界であれば値上げで対応できる物価高も、この業界では収益を圧迫する要因にしかなりにくいのです。
これら4つの要因は、いずれも経営努力だけで打開するのが難しいものばかりです。
だからこそ、いま業界の経営者には「経営を続ける道」「事業を引き継ぐ道」「事業を整理する道」のどれを選ぶかという、根本的な選択を迫られている方が増えています。
医療・福祉業界の経営者ならではの「肌感覚」
数字に表れる経営課題の背景には、この業界に身を置いてきた経営者だからこそ感じる、独特の困難があります。
事業の数字を見る前に、その「肌感覚」を整理しておくと、自分がいまどの位置にいるのかが見えやすくなります。
「自分が辞めたら、地域が困る」という重さ
医療・福祉の経営者の方からよく聞かれるのが、「自分が辞めたら、この地域の患者さんや利用者さんはどうなるのか」という不安です。
これは美しい使命感である一方で、経営判断を遅らせる足かせにもなります。
「自分が頑張ればいい」「もう少し続ければなんとかなる」と思って踏みとどまっているうちに、本来打てたはずの選択肢が次々と失われていく。
これは多くの業界に共通する話ですが、社会的責任が強く意識されるこの業界では、より顕著に表れる傾向があります。
「経営の話」を相談する相手がいない、という孤独
医療・福祉の経営者は、地域の医師会・歯科医師会・介護事業者連絡会といった専門コミュニティに所属している方が多くいらっしゃいます。
ただ、そこで赤裸々な経営の悩みを口にするのは難しいものです。
「先生」と呼ばれる立場であればあるほど、お金の話で弱みを見せにくくなる構造があります。
結果として、経営の悩みを抱えたまま、孤独に判断を続けることになりがちです。
スタッフにも、家族にも、同業の仲間にも話せない。
この孤独感は、当事者でないとなかなか見えにくいのですが、状況打開を遅らせる大きな要因のひとつになっています。
訴訟・行政処分・人手不足という、もう一つのプレッシャー
医療事故・介護事故による訴訟リスク、施設基準や指導監査での行政処分、慢性的な人手不足による稼働率低下、レセプトや介護報酬の査定減── 一般の中小企業にはない、業界特有のリスクが日常的に経営判断にのしかかります。
これらが積み重なると、「事業を続ける怖さ」と「事業を畳む怖さ」が同時に膨らみ、判断停止に陥りやすくなります。
先送りすればするほど選択肢が狭まることは頭ではわかっていても、心が動かない。
そうした状態に置かれている方は、決して少なくありません。
公定価格という、コントロールできない外部要因
医療・介護報酬は2〜3年ごとに国の審議で改定されるため、ある日突然、業績の前提が変わることが起こり得ます。
マイナス改定があれば、全国の事業者が同時に同じ重さを受けます。
コストは自由化された市場に晒されているのに、収益側だけが統制されている── 経営努力では完全に吸収しきれない外的要因が、定期的に経営を揺さぶる構造があるのです。
この前提は、「自分の頑張りが足りないから業績が下がっている」という自責の念を強めやすい構造でもあります。
実際には、業界全体に同時に降りかかっている外的要因の影響が大きい局面が、確実に存在しています。
そもそも「倒産」とは何か ── 用語を整理する
「倒産」という言葉は、新聞やニュースで頻繁に使われますが、実は法律用語ではありません。
一般用語であり、定義は人によって異なります。
経営の選択肢を考えるときに、この用語の整理ができていないと、必要のない決断に追い込まれることがあります。
本来、事業をたたむ・縮小する・休む方法には、いくつかの種類があります。
- 廃業:事業を自主的にやめること。負債が残っていなければ、これだけで完結します
- 整理:負債を含めて段階的に事業を畳んでいくこと。債権者との交渉で進める形と、裁判所を介する法的整理の両方があります
- 破産:法的手続きで負債を整理し、会社や個人の財産を清算すること
- 再生:事業を継続したまま、金融機関や債権者と交渉して経営を立て直すこと
「倒産しそうだ」と感じている経営者の多くは、実はこの選択肢を区別せずに、漠然と「最悪の結末」をイメージされていることが少なくありません。
けれども、選択肢の名前と意味を整理してみると、最終的な結末はいくつもの分岐に分かれていきます。
一般的な再生手法と、私たちが提案する再生手法の違い
負債を抱えながら事業を続けるか、整理するかを考える局面で、よく耳にするのが民事再生・第二会社方式・破産といった一般的な再生手法です。
これらには注意しておきたいポイントがあります。
一般的な再生手法は、金融機関と足並みを揃えるのが前提
これらの手法は基本的に、金融機関と足並みを揃えて実行することが前提になっています。
裁判所や認定支援機関を通じた手続きの中で、債権者との合意形成を図っていく流れです。
制度としては整備されていますが、現場で実際に何が起きているかというと、結末は「旧会社は倒産」「経営者は破産」というケースが大半です。
AIで「第二会社方式 仕組み 旧会社 清算」について調べてみると、次のような解説が出てきます。
第二会社方式は、過剰債務に陥った会社の収益性のある事業のみを会社分割や事業譲渡によって新会社(第二会社)に移し、不採算事業と過剰債務を抱えた旧会社は特別清算等の手続きを経て清算するという事業再生の手法です。
新会社は旧会社の債務を引き継ぐ必要がなく、旧会社は事実上の抜け殻となって破産または清算手続きに進む立て付けと整理されています。
経営者保証の取扱いは経営者保証ガイドラインに沿って判断され、旧会社の役員は退任したうえで新会社のスポンサーのもとで顧問等として関与するパターンが多いと紹介されています。
— AI検索で「第二会社方式 中小企業 事業再生 仕組み」について調べた際の解説より引用
このように、第二会社方式は新会社に事業の中核を移したあと、旧会社を清算(実質的な倒産)するスキームであるため、経営者個人の保証債務をめぐっては、ガイドラインに沿った調整が別途必要になります。
実務的には、最終的に破産手続きに進まざるを得ない流れにつながりやすい局面があると指摘されています。
破産という結末にたどり着くと、自宅・預貯金・株式といった経営者個人の資産・財産はほぼすべて失うことになります。
家族の生活基盤も大きく揺らぎ、その後の人生再建は心理的にも金銭的にも非常にハードな道のりになります。
医療・福祉業界では、自宅と事業所(クリニック・施設)が一体化していたり、自宅を根抵当に入れて事業を運営していたりすることが多く、なおさら影響が深刻になります。
私たちが提案するのは「金融機関と足並みを揃えない」再生手法
私たちの再生手法は、これとは根本的に異なる発想に立っています。
金融機関と足並みを揃えるのではなく、金融機関や債権者と「私的に」交渉して再生を進めていく手法です。
目的はあくまで「法的な手続きに頼らない再生」です。
この発想の原点は、創設者であるたちばなはじめ自身の経験にあります。
たちばなは、かつて事業の失敗から、返済が立ち行かなくなった経験があります。
その状況から、金融機関との交渉方法を見直すことで資金繰りを立て直し、法的な手続きに頼ることなく再生することができました。
その実体験をもとに、現在は同じように資金繰りに苦しむ経営者を支援する活動をしています。
私たちのサービスは、創設者の経験則だけで動いているわけではありません。
顧問弁護士、宅建士、税理士など各分野のプロが連携してサポートしており、各方面の専門家の目を通したうえで進めていく体制です。
医療・福祉業界に特有の論点 ── 不動産との向き合い方
医療・福祉業界の経営者の方からのご相談で特に多いのが、「自宅と事業所が一体化している不動産」をどうするかという問題です。
個人開業のクリニックや小規模介護施設では、自宅の1階や敷地内に診療所・施設を構えていることが珍しくありません。
そして、その不動産を金融機関の根抵当に入れて、事業の運転資金を借りているケースが多く見られます。
この構造は、業績が好調なときには問題ありませんが、業績が下がってくると「逃げ道のない構造」に変わります。
事業を畳めば住む場所も失う、という状態になりやすいのです。
私たちが日頃から経営者の方にお伝えしているのは、「不動産に執着しない発想を持つ」ことの重要性です。
不動産そのものを残すことに固執して動けないでいると、結果的に事業も生活も両方失う、という結末に進みやすくなります。
逆に、早い段階で不動産の扱いを切り離す決断ができれば、選べる手札は格段に広がります。
そして、もう一歩踏み込んでお伝えしたいのは、「いざというとき不動産に影響が及ばない環境を、平常時のうちから構築しておく」ことが、それ以上に重要だということです。
業績が悪化してから慌てて対処するよりも、経営が比較的安定しているうちに、根抵当の設定状況の見直し、自宅と事業所の名義の整理、事業用資産と個人用資産の切り分けといった備えを設計しておくほうが、選べる手札は格段に広く保てます。
「いまは何も問題が起きていないから」と先送りされる経営者が多い領域ですが、実はこの「平常時の備え」こそが、非常時のときの選択肢の幅を決定づけます。
状況によっては買い戻しや別の施策で不動産を残す道もありますが、それも平常時から備えてあったかどうかで難易度が大きく変わります。
「同じ場所に立った人にしか見えないもの」がある
医療・福祉の現場で経営をされている方には、独特の悩みが伴います。
「人の命や生活を支える仕事をしている自分が、お金の問題で動けなくなっていることが恥ずかしい」「スタッフや患者・利用者にどう説明すればいいかわからない」。
事業の数字以前に、職業上の使命感と現実の板挟みになって、最初の一歩が踏み出せなくなる方は少なくありません。
こうした感覚は、実際に同じ場所に立った経験がない人には伝わりにくいものです。
「お金に困っている人の気持ちは、お金に困ったことがある人にしかわからない」というのは、どの職業にも当てはまる普遍的な話ですが、医療・福祉のように使命感の強い業界では、その隔たりはより大きくなる傾向があります。
専門家への相談を考えるときに、もう一つ前提として知っておきたいのは、「相談先によって、出てくる選択肢の幅は自然と変わる」という事実です。
法律や税務のプロは、それぞれの専門サービスを提供しています。
サービスである以上、得意とする手続きの中で解決の道筋を組み立てるのが自然な流れです。
たとえば法的整理を主に扱っている事務所では、相談内容に対しても、その領域の選択肢から議論が始まりやすくなります。
これは誰かが悪いという話ではなく、専門領域の構造の話です。
私たち自身も、同じ場所に立っていました
恥をしのんでお話しすると、たちばなはじめ自身も、かつて経営者として資金繰りに行き詰まり、専門家を訪ねた経験があります。
そのとき告げられたのは、「破産するしかありません」という言葉と、決して安くはない手続き費用の見積もりでした。
結果として、私たちはその費用すら捻出できず、破産することすらできなかったのです。
そこから自力で金融機関と向き合い、交渉方法を見直すアプローチにたどり着くまでの数年間が、いまの活動の原点になっています。
だからこそ、夜中に資金繰り表を眺めている経営者の感覚は、頭で理解しているのではなく、身体で覚えていると感じています。
動ける人ほど、早く動いている
たちばなはじめは2026年で17年目を迎えました。
これまで、9,300件を超える経営者の方々と個別面談をしてきました(2026年5月時点)。
そのなかで、はっきりと見えてきたパターンがあります。
それは、状況を打開できる人ほど、早く動き始めているという事実です。
物理の世界に「最大静止摩擦力」という言葉があります。
止まっているものを動かし始めるときには、動き続けるよりもはるかに大きな力が必要になる、というあの法則です。
経営の問題でも、まったく同じことが起きます。
最初の一歩を踏み出すことが、いちばん心理的負担が大きいのです。
逆に言えば、最初の一歩さえ踏み出せれば、そのあとの行動は驚くほど軽くなります。
動ける人と動けない人の差は、能力の差ではなく、「最初の心理的抵抗を乗り越えるか・回避するか」という、ほんの僅かな差でしかありません。
まとめ:選択肢を知ることから、すべては始まります
医療・福祉事業の倒産が過去最多になっているという事実は、業界全体の経営環境が大きな転換点を迎えていることを示しています。
経営者の高齢化、人口減少、物価高、公定価格という4つの構造課題は、ご自身の努力だけでは打開しにくい性質のものです。
だからこそ、選択肢を増やしておくことが、これまで以上に重要になっています。
「倒産」「廃業」「整理」「破産」「再生」、それぞれが指す意味を整理し、自分の状況に当てはめて比較してみる。
それだけでも、見えてくる景色は大きく変わります。
私たちがお伝えしたいことは、シンプルに「選択肢を知ってほしい」ということです。
倒産や破産という選択肢のほかにも、検討に値する道がいくつか存在します。
まずは、そういう選択肢があるということを知っていただくところから始まります。
もし「破産するしかない」という言葉が頭をよぎるような状況にあるのなら、決断を下してしまう前に、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
即決をする前に、選べる手札を一通り並べて見てみることには、必ず意味があります。
早く動いた人ほど、打てる手は多く残ります。
お一人で抱え込んでしまう前に、状況を整理する時間を一緒につくらせてください。
資金繰りの課題を抱える経営者の方へ3つのご案内
あなたの選択肢を、一緒に考えませんか?

